区分所有法は100年社会に耐えられるのか ― マンション制度の持続可能性を問う

税理士
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築古マンション問題、相続未登記、相続放棄と議論を重ねていくと、最終的に制度そのものの問いに行き着きます。

マンションの法的基盤である区分所有法は、長寿命化が進む100年社会に本当に対応できているのでしょうか。

本稿では、区分所有制度の設計思想と、現在顕在化している課題、そして近年の法改正の方向性を整理します。


区分所有法の前提構造

区分所有法は、専有部分の個人所有と共用部分の共有という二重構造を基本としています。

重要な点は、マンションを「自治的共同体」として設計していることです。

・管理組合による運営
・総会決議による意思決定
・多数決原理
・規約による内部統治

つまり、区分所有法は「共同体が機能している」ことを前提としています。


100年社会で露呈する制度的緊張

高齢化と長寿命化が進む社会では、この前提に緊張が生じます。

1 意思決定の停滞

大規模修繕や建替えには高度な多数決が必要です。
しかし、所有者の高齢化や経済格差の拡大により、合意形成は困難になります。

「住み続けたい」という居住安定志向と、「将来負担を避けたい」という経済合理性が衝突します。

2 負担の世代間不均衡

修繕積立金は将来世代のための準備資金です。
しかし高齢期に入ると、積立の便益を受ける期間が短くなります。

制度上は合理的でも、個人の行動としては積立回避の動機が生まれます。

3 所有者不在問題

相続未登記、相続放棄、連絡不能などにより、議決権行使が困難になるケースが増えています。

区分所有法は、所有者が存在し意思表示できることを前提としています。
その前提が崩れたとき、制度は十分に機能しません。


近年の法改正の方向性

近年のマンション関係法改正では、次の点が強化されています。

・管理不全マンションへの自治体関与
・財産管理制度の創設
・標準管理規約の見直し
・管理計画認定制度との連動

これらは、自治が機能しない局面に対して制度的な補完装置を設けようとする試みといえます。

区分所有法は、従来の「自治中心モデル」から、「自治+公的補完モデル」へと移行しつつあります。


それでも残る根本課題

法改正が進んでも、なお次の課題は残ります。

高い決議要件

建替え等の特別決議は依然として高いハードルです。
合意形成の困難は構造的問題であり、条文改正だけでは解決しません。

資金調達問題

制度が整っても、工事費の高騰や積立不足は解消しません。
財務基盤の弱いマンションでは、制度があっても実行できないという事態が生じます。

自治体の限界

行政の関与が強化されても、人的資源や財源には限界があります。
すべての管理不全案件に公的介入が可能とは限りません。


「住み続ける」と「所有し続ける」の再整理

100年社会では、住み続けることと所有し続けることが必ずしも一致しません。

高齢期の安定した居住を確保するためには、

・所有の柔軟化
・住替え支援
・リースバック等の活用
・管理負担の外部化

といった発想も必要になります。

区分所有法は「所有の継続」を前提に設計されていますが、社会の実態は必ずしもそれを支えていません。


結論

区分所有法は、共同体が機能している限り合理的に機能する制度です。
しかし100年社会では、共同体が機能しない局面が構造的に発生します。

近年の法改正は、その「例外状態」に対応する方向へ進んでいますが、合意形成の壁や資金問題など、根本課題は残っています。

区分所有法が100年社会に耐えられるかどうかは、条文改正だけで決まるものではありません。

自治の実効性、公的補完の設計、そして所有と居住の関係をどう再構築するか。
この三点が、今後の制度設計の鍵になります。


参考

税のしるべ 2026年2月16日
国土交通省「令和7年マンション関係法改正とこれからのマンション管理」
国土交通省「マンション標準管理規約(令和7年10月最終改正)」
区分所有法関連資料

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