副業時代の労働時間管理――複数就業は制度と整合するのか

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働き方改革の議論では、長時間労働の是正と並んで「副業・兼業の促進」が重要な政策テーマとして位置付けられています。政府は2018年に副業・兼業の促進に関するガイドラインを策定し、企業に対して副業を認める方向での制度整備を促してきました。

しかし、副業を推進する政策と、労働時間を厳格に管理する制度は、必ずしも整合しているとは言えません。副業が広がるほど、労働時間の管理や安全配慮義務、社会保険の取り扱いなど、制度上の課題が顕在化するためです。

本稿では、副業時代における労働時間管理の問題を整理し、制度の矛盾と今後の課題を考えます。


副業・兼業の拡大

厚生労働省の調査では、副業・兼業を行っている労働者は約11%程度とされています。割合としてはまだ高いとは言えませんが、ここ数年で徐々に増加しています。

副業が広がる背景には、いくつかの要因があります。

第一に、所得の補完です。
賃金の伸びが限定的な中で、複数の仕事を持つことで収入を増やそうとする動きが広がっています。

第二に、キャリア形成です。
本業とは異なる分野で経験を積むことで、スキルを高めようとする人も増えています。

第三に、企業側の姿勢の変化です。
従来は副業を禁止する企業が多くありましたが、近年は副業を認める企業も増えています。

このように、副業は個人の働き方の多様化を象徴する動きといえます。


労働時間規制との矛盾

問題となるのは、労働時間規制との関係です。

日本の労働基準法では、労働時間の上限が定められています。原則として時間外労働は月45時間以内、年360時間以内とされています。

しかし、副業を行う場合、複数の企業で働くことになります。
その際、労働時間は本業と副業を合算して計算することとされています。

例えば、本業で1日8時間働いた後に、副業でさらに働いた場合、その時間も労働時間として扱われます。結果として、企業が想定していない形で時間外労働が増える可能性があります。

このため、企業側は副業を認めたとしても、労働時間管理の面で慎重にならざるを得ません。


企業の安全配慮義務

もう一つの重要な論点は、安全配慮義務です。

企業は、労働者の健康や安全を確保する義務を負っています。過重労働によって健康を害することがないよう、労働時間を管理する必要があります。

しかし、副業がある場合、企業が把握できるのは自社での労働時間だけです。副業先での労働時間までは把握できない場合が多く、実態として労働時間管理が難しくなります。

もし過労による健康問題が発生した場合、企業の責任がどこまで問われるのかという問題も生じます。この点は、副業を認める企業が慎重になる大きな理由の一つです。


社会保険制度との関係

副業の拡大は、社会保険制度にも影響します。

社会保険は通常、主たる勤務先で加入する仕組みです。しかし、複数の企業で働く場合、収入の合計額が社会保険の適用要件に影響する可能性があります。

さらに、副業の形態によっては、個人事業として働くケースもあります。その場合、所得税や住民税、社会保険の取り扱いが複雑になります。

副業の普及は、労働制度だけでなく、税制や社会保障制度にも影響を与えるテーマといえます。


海外との制度比較

海外では、副業に対する制度の考え方が日本とは異なる場合もあります。

欧州では、労働時間規制は厳しいものの、労働者自身の自己管理を重視する傾向があります。米国では、労働時間規制よりも契約自由の考え方が強く、副業そのものに対する規制は比較的少ないとされています。

日本の場合は、企業による労働時間管理が制度の前提となっています。そのため、副業の広がりは、従来の制度設計と衝突する部分があります。


結論

副業・兼業の拡大は、働き方の多様化という点では重要な変化です。しかし、その一方で、労働時間規制、安全配慮義務、社会保険制度など、従来の制度との間に矛盾が生じています。

今後は、

  • 労働時間管理のあり方
  • 企業の責任範囲
  • 社会保険制度の適用

といった点について、制度の整合性を再検討する必要があります。

働き方改革は、単に労働時間を減らす政策ではなく、働き方そのものを見直す政策でもあります。副業時代の制度設計は、その象徴的な課題の一つといえるでしょう。

参考

日本経済新聞 労働時間「増やしたい」16.2% 働き方改革、厚労省が企業調査(2026年3月6日)
厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン
厚生労働省 働き方改革関連法に関する資料

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