円安是正と株高は両立するのか 内需拡大と産業力強化が分岐点

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為替と株価の関係は、日本経済を読み解くうえで重要な視点です。円安が進めば株高、円高になれば株安という図式は、長らく市場の常識とされてきました。しかし足元では、その関係に微妙な変化が見られます。円高方向への修正が進みながらも、日本株は底堅さを保っています。

本稿では、過去の事例を振り返りながら、円安是正と株高が両立する条件について整理します。


円と株の相関に起きている変化

過去20年余り、日本株と為替は「円安になると株高」という負の相関関係が続いてきました。しかし最近は、円高局面でも株価が堅調という場面が増えています。

この変化の背景には、企業構造の変化があります。かつては国内生産・輸出依存の度合いが高く、為替の影響が直接的でした。しかし現在は、多くの企業が海外に生産拠点を持ち、収益の地域分散が進んでいます。

円安が1円進んだ場合の経常利益押し上げ効果は、2013年前後に比べ半減しているとの分析もあります。為替依存度が低下していることは、裏を返せば円高への耐性が高まったことを意味します。


円高・株高が成立した歴史的局面

通貨高と株高が同時に進行する局面は決して多くありません。

日本では1980年代後半、いわゆるバブル経済期が代表例です。1985年のプラザ合意後に円高が進む中でも株価は上昇しました。当時は円高・低金利・原油安という条件が重なり、内需拡大が強く意識されていました。

また2002年から2007年の景気拡大期も円高と株高が並行しました。この時期は世界経済の拡大に支えられた輸出増加と、不良債権処理の進展による金融正常化が背景にありました。

ただし、この局面では賃金上昇が弱く、内需拡大の持続力は十分ではありませんでした。結果として産業競争力の抜本的強化には至らなかったという評価もあります。


今回の円高局面が意味するもの

現在は当時と環境が異なります。

第一に、インフレへの転換です。長期デフレから脱却しつつあり、賃上げが継続しています。実質賃金が安定的にプラスへ転じれば、内需拡大の持続性が高まります。

第二に、産業構造の変化です。人工知能(AI)関連や半導体分野では需要逼迫が続き、価格決定力を持つ分野が存在します。こうした分野では、多少の円高が進んでも競争力が直ちに失われるわけではありません。

第三に、政策面の方向性です。バイオ、宇宙、次世代エネルギーなど、高付加価値分野への投資を拡大できるかどうかが中長期の成長力を左右します。


両立の条件は「内需」と「付加価値」

円安是正と株高が両立するための条件は、次の二点に集約されます。

1つ目は、内需の拡大です。
賃金上昇が消費に波及し、国内投資が拡大することで、為替に依存しない成長構造が確立されます。

2つ目は、付加価値の高い産業の育成です。
価格競争に陥る分野では、円高は収益を圧迫します。一方で技術力や独自性で優位性を確立できる分野では、為替変動の影響は相対的に小さくなります。

過去の経験が示すのは、単なる為替の動きだけでは持続的株高は成立しないということです。


結論

円安是正と株高は理論上は両立可能です。ただし、それは為替水準そのものではなく、経済の質的変化にかかっています。

内需が持続的に拡大し、付加価値の高い産業が育成され、価格決定力を持つ企業が増えること。

この条件が満たされるとき、為替に左右されない株式市場の強さが形成されます。

為替相場の水準を議論するだけでは不十分です。問われているのは、日本経済の産業構造そのものの転換力だといえるでしょう。


参考

日本経済新聞 2026年2月21日朝刊「円安是正と株高、両立の条件」

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