円安は是正すべきか、それとも受け入れるべきか――「正解のない論点」を実務目線で整理する

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円安が続くと、必ず出てくる議論があります。円安は是正すべきなのか、それとも受け入れるべきなのか、という問いです。
しかし、この問いに万能の正解はありません。なぜなら、円安は「誰にどんな影響が出るか」が立場によって大きく違い、さらに時間軸(短期・中期・長期)でも評価が変わるからです。

ここでは、賛否の主張を並べるだけではなく、判断の軸を整理します。「是正か受容か」を二者択一にしないための、現実的な整理をしていきます。

そもそも「是正」とは何を指すのか

円安是正という言葉は便利ですが、実務的には中身が曖昧です。主に次の3つが混ざりがちです。

  • 為替水準を特定のレンジに戻すこと(例:急激な円安を止める)
  • 変動スピードを落とすこと(急変を抑える)
  • 円安が家計や企業に与える悪影響を緩和すること(補助金、減税、賃上げ促進など)

政策論として重要なのは、「どれを目標にするか」を分けて考えることです。為替水準そのものを動かすのか、変動を抑えるのか、被害を抑えるのかで、手段も副作用も違います。

是正すべきだ、という考え方

円安是正を支持する側の主張は、概ね次のポイントに集約されます。

  • 生活コスト上昇(輸入インフレ)が家計を直撃し、実質賃金を押し下げやすい
  • エネルギー・食料など必需品の輸入価格が上がり、社会的な不満が蓄積しやすい
  • 輸入原材料に依存する企業(特に中小企業)の収益を圧迫し、価格転嫁できない企業ほど疲弊する
  • 急激な円安は市場不安を呼び、金利上昇や資本流出懸念につながり得る

ここで重要なのは、「円安そのもの」よりも「急激な円安」と「家計・中小企業への負担集中」が問題になりやすい点です。是正論の多くは、為替の絶対水準より、社会的な耐久力の限界を意識しています。

受け入れるべきだ、という考え方

一方、円安を一定程度受け入れるべきだという考え方にも合理性があります。

  • 輸出・海外売上比率の高い企業は利益が増えやすく、投資・賃上げ余力につながり得る
  • 価格が上がることで、企業が「値上げ・賃上げ・投資」に踏み切る環境が整いやすい
  • これまでのデフレ的な均衡(安く売る・賃金が上がらない)から脱しやすい
  • 為替は金利差・成長率・国際収支・リスク選好など複合要因で動くため、政策で“狙い撃ち”しにくい

受容論のポイントは、円安を“悪”と決めつけず、構造転換(賃上げ・投資・価格転嫁の定着)に使えるなら、一定の円安は「変化を促す圧力」になり得る、という立場です。

ただし、この議論が成立する条件ははっきりしています。円安メリットが「賃上げ・投資」として国内に回り、家計の負担増を部分的にでも相殺できる場合に限られます。

実務的な結論は「全部を是正しないが、放置もしない」

現実の政策運営で採られやすいのは、極論ではなく中間です。整理すると次のようになります。

  • 水準の固定:狙わない(難易度が高く副作用も大きい)
  • 急変の抑制:狙う(市場の混乱、家計不安を減らす)
  • 負担の偏り是正:狙う(家計・中小企業に負担が集中しないよう政策対応)

つまり、円安を「受け入れる局面」はあっても、「放置する局面」は別問題です。放置すると、負担の偏りが拡大し、結果的に政治・社会の不安定化を通じて経済運営が難しくなるからです。

判断軸は3つだけに絞る

円安を是正すべきか受け入れるべきかを考えるとき、判断軸は多く見えますが、実務上は次の3つに集約できます。

  1. スピード:急激か、緩やかか
  2. 負担の偏り:家計・中小企業に集中していないか
  3. 国内還元:円安メリットが賃上げ・投資として回っているか

この3つが揃っていれば「一定の受容」が可能です。逆に、急激で、負担が偏り、国内還元も弱いなら「是正(少なくとも急変抑制と負担緩和)」が必要になります。

金融政策だけでは決まらない

円安議論は日銀の利上げに集約されがちですが、為替は金融政策だけで決まるものではありません。財政運営、成長力、国際収支、資源価格、地政学リスクなども絡みます。
ここでのポイントは、金融政策にすべてを背負わせると、副作用(景気下押し)が大きくなりやすいことです。

そのため政策の組み合わせとしては、次の発想が現実的です。

  • 金融:急変を抑えるメッセージと、信認の確保
  • 財政:負担の偏りを緩和(ただし恒久化させない設計)
  • 成長戦略:賃上げ・投資の回路を太くする(円安メリットの国内還元)

結論

円安は、是正すべきか受け入れるべきか、という二択では整理できません。
実務的には、「急激な円安は抑える」「負担の偏りは是正する」「円安メリットは国内に還元させる」という3点セットが現実的な落としどころになります。

2026年の局面で問われるのは、為替水準そのものよりも、円安が生む負担が社会に耐えられる形になっているか、そして円安の果実が国内の賃上げ・投資につながっているか、という点です。ここが崩れるなら、円安は受け入れられません。ここが保てるなら、円安は“使い方次第”になります。

参考

・日本経済新聞「日銀、円安と格闘の1年に 脱リフレ 協調カギ」(2026年1月18日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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