共働き時代の「小1の壁」と介護離職 東京都の人材政策をどう見るか

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東京都が学童保育や介護分野の人材確保策を大幅に拡充する方針を打ち出しました。家賃補助や処遇改善、資格取得支援などを通じて、いわゆるエッセンシャルワーカーの確保・定着を図るというものです。

背景にあるのは、共働き世帯の増加と、育児・介護を理由とする離職の問題です。労働力人口の伸びが鈍化する中で、仕事と家庭の両立を支える社会基盤の整備は、単なる福祉政策ではなく、経済政策でもあります。

本稿では、東京都の施策の内容を整理したうえで、その政策的意味と課題を考察します。


学童保育支援の拡充と「小1の壁」

東京都は2026年度から、学童保育の職員確保策を強化します。主な内容は以下のとおりです。

・学童職員向け住宅を借り上げる事業者に対し、1戸あたり月8万2000円の家賃補助
・学童運営費補助として年間126億円を確保
・独自の学童クラブ認証制度の推進

都内の学童待機児童は約3360人とされます。保育所を利用していた子どもが小学校に進学した途端、預け先が不足する「小1の壁」は、共働き世帯にとって現実的なリスクです。

都内で3歳未満の子を持つ世帯の共働き率は70%に達し、20年前の約2倍です。育児支援が労働供給の前提条件になっていることは明らかです。

この点、学童人材への住宅補助は、生活コストの高い東京において一定の合理性があります。ただし、後述するように「他地域からの流入依存」という副作用も見逃せません。


介護分野への支援と離職リスク

介護分野では以下の支援策が予定されています。

・賃上げや人材育成に取り組む事業者へのコンサル費用補助
・障害福祉事業所への採用広報費補助
・ホームヘルパー資格取得費用の補助
・代替職員確保費用として最大200万円の補助

都内事業所の12%で直近1年間に介護休業取得者がいたという調査結果もあり、介護は企業活動にとっても無視できない要素です。

介護離職は、本人の所得減少にとどまらず、企業の人材流出、社会保険料収入の減少にも直結します。高齢化が進む中で、介護人材確保は社会保障制度の持続可能性とも連動しています。


労働力人口の伸び鈍化と政策的背景

東京都の労働力人口は増加傾向にありますが、伸び率は縮小しています。直近5年間の平均増加数は、それ以前の5年間に比べて約4割減少しています。

少子高齢化の進行を踏まえれば、今後は「新たに労働力を増やす」よりも、「離職を防ぐ」政策が重要になります。

育児・介護を理由とする離職の抑制は、労働供給の維持という観点から極めて合理的です。特に35~44歳女性の離職理由の一部が出産・育児にあることを考えると、支援策は単なる福祉支出ではなく、将来の税収基盤維持策でもあります。


金銭支援の限界と人材育成の課題

もっとも、金銭的優遇策には構造的課題もあります。

保育士確保策では、処遇改善によって他地域からの人材流入が進む一方、都内養成施設の入学定員は減少傾向にあります。東京で必要な人材を東京で育てる力が低下しているとの指摘もあります。

これは典型的な「地域間人材移動のゆがみ」です。
東京都が待遇を引き上げれば、周辺地域との格差が拡大し、人材の奪い合いになります。

短期的な人材確保策と、中長期的な人材育成策をどう両立させるかが重要です。奨学金支援や資格取得支援は、育成重視型の政策として一定の方向性を示していますが、制度設計の継続性が問われます。


エッセンシャルワーカー政策の意味

エッセンシャルワーカーは、公的制度により賃金水準が事実上規定されている職種が多いという特徴があります。

市場メカニズムだけでは賃金調整が進みにくい領域であるため、行政の関与は一定程度避けられません。しかし、地域間格差の拡大という副作用も同時に生じます。

本来は、

・賃金体系の制度的見直し
・人材育成ルートの再構築
・職業の社会的評価の向上

といった総合的政策が必要です。

単年度予算による補助だけでは、持続的な人材確保にはつながりにくい側面があります。


結論

東京都の施策は、共働き世帯の負担軽減と離職防止という観点から、一定の合理性を持っています。労働力人口の伸びが鈍化する中で、育児・介護支援は経済成長戦略の一部でもあります。

一方で、金銭支援による短期的な人材確保は、地域間格差や育成力低下といった副作用を伴います。

今後は、

・離職抑制
・人材育成
・制度的賃金構造の見直し

を一体で進める視点が不可欠です。

共働きが標準となった社会において、エッセンシャルワーカー政策は福祉政策ではなく、社会の基盤整備政策です。その持続可能性こそが、東京の将来を左右するといえるでしょう。


参考

日本経済新聞
2026年2月20日朝刊
共働き世帯の離職・負担抑制へ 都、学童や介護人材拡充

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