公正証書遺言のオンライン化が広げる選択肢 公証役場へ行かずに作成できる仕組みと注意点

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公正証書遺言は、遺言を確実に実行するための制度として広く利用されています。公証人が関与し、原本が公証役場で保管されるため、他の方式の遺言よりも紛争リスクが低いことが大きな利点です。これまでは作成時に公証人と対面する必要がありましたが、2024年10月からオンラインでの作成が全国で順次可能となり、制度が大きく転換しました。
特に高齢者や遠隔地居住者にとって、外出が難しい状況でも遺言作成を進められる点が注目されています。一方で、オンラインで作成するには特有の要件があり、対面よりも慎重な確認が求められます。
本稿では、この新しい仕組みのポイント、利用の流れ、費用負担、利用時の注意点まで整理して解説します。

1 オンライン公正証書遺言とは

公正証書遺言の原則は「本人の真意確認」と「確実な保全」です。オンライン化であってもこの根本は変わらず、従来の公証人面前での作成と同水準の信頼性を確保することが前提とされています。
新制度では、公証人がウェブ会議を通じて本人と証人に直接説明し、電子署名をもって原本の作成を完了します。原本はPDFで作成され、日本公証人連合会のクラウドに保管されます。本人は後日、メール経由で入手できます。

オンライン化のメリットは以下の通りです。

  • 公証役場までの移動が不要
  • 入院中や自宅療養中でも制度を活用しやすい
  • 地方住まいでも公証人との距離がネックにならない

特に、公証役場が県内に数カ所しかない地域では、これまでの移動負担が大きな障壁でした。オンライン化は、こうした制約を取り除く大きな前進といえます。


2 オンライン遺言作成の流れ

オンラインだけで完結するには、以下の手順を踏みます。

(1)メールでの申請

まず、公証役場へメールでオンライン利用の申請を行います。
ここで本人確認用の電子証明書などの提出が求められます。

(2)遺言案の検討

提出した資料に基づき、公証人とやり取りしながら案文を調整します。内容が確定すれば、ウェブ会議の日程を調整します。

(3)ウェブ会議

本人・公証人・証人の3者がオンラインで参加する形となります。
公証人が案文を読み上げ、本人が内容を最終確認し、修正がなければ公証人がPDF化して画面共有します。

(4)電子署名での確定

本人・証人・公証人がPDFに電子署名することで原本が成立します。原本はクラウドで保管され、本人は後日ダウンロード可能です。

従来の対面方式と比べ、手続きの途中でオンラインとメール連絡が組み合わされる点が特徴的です。


3 費用面の整理

オンライン化によって費用が安くなるわけではなく、基本的な作成料は対面と同じです。
作成料は以下の要素から構成されます。

  • 遺言の受取額に基づく作成料
  • 遺産総額に応じた遺言加算
  • 出張が必要な場合の交通費・日当
  • 病床での作成の場合の50%加算

記事の例では、相続人1人・受取額5000万円超1億円以下の場合の基本料は4万9000円。
病床での作成であれば50%加算されて7万3500円となり、さらに遺言加算1万3000円が加わり、合計8万6500円となります。

オンラインで作成する場合は出張費用がかからず、結果として費用を抑えられるケースがあります。ただし、電子署名の準備など事前の対応が多く、手続きの丁寧な確認が必要です。


4 利用できるのは「公証人が相当と認めた場合」

オンライン作成には、特有の審査があります。公証人が案件ごとに判断するため、希望すれば必ずオンライン方式が認められるわけではありません。

主な判断ポイントは以下の通りです。

  1. 本人の判断能力の確認が十分にできるか
    医師の診断書の提出が求められる場合があります。
  2. 遺言内容が偏りすぎていないか
    特定の相続人だけに大きく配分する場合、合理的理由の説明が必要となることがあります。
  3. 利害関係者が同席していないか
    本人の意思を妨げる存在が近くにいないことを確保するため、相続人の同席は禁止されています。
    会議の開始時に室内全体を映して確認するなどの運用が広がっています。

公正証書遺言は紛争予防のための制度であるため、オンライン化によって確認体制が緩和されるわけではありません。むしろオンライン作成だからこそ、対面以上に慎重な本人確認が行われます。


5 利用が増える背景

公正証書遺言は2024年に過去最高の12万8000件を記録しました。背景には、相続をめぐるトラブルを事前に防ぎたいという意識の高まりがあります。

特に、以下のようなケースで相談が増えているとされます。

  • 子のいない夫婦
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人となる家庭
  • 高齢の親が大きな資産を持つケース
  • 介護に関わった子と関わらなかった子で待遇が分かれるケース

子どもがいない夫婦では、兄弟姉妹に相続権が生じ、残された配偶者が資産の多くを受け取れない可能性があります。こうした状況を避けるため、公正証書遺言で明確に意思を残す事例が増えています。

オンライン方式は、これらの需要に対応する新しい選択肢として期待されています。


結論

公正証書遺言のオンライン化は、遺言を必要とする人にとって大きな前進です。高齢者や遠隔地居住者でも作成しやすくなり、手続きのハードルが確実に下がりました。
一方で、オンラインであるからこそ確認手続きは慎重であり、公証人による判断を経て初めて利用が認められます。
遺言は家族の将来を左右する重要な行為であり、内容の調整・証人の確保・判断能力の確認など、個別事情に応じた準備が欠かせません。
制度の特性を理解したうえで、自身や家族に適した方式を早めに検討しておくことで、より安心した相続準備につながります。


参考

・日本経済新聞「<ステップアップ>公正証書遺言 ネットで負担減」(2025年12月6日)
・日本公証人連合会資料
・公証役場案内(制度概要)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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