東京23区のマンション価格が新築・中古ともに1億円を超える水準に達しました。かつて「億ション」は限られた富裕層の象徴でしたが、現在は共働き世帯を中心とする実需層も購入主体となっています。
背景にあるのは、ペアローンや50年といった超長期ローンの広がりです。借入可能額が拡大し、若年層でも1億円超の物件に手が届くようになりました。そして特徴的なのは、購入時点から将来の売却を想定している層が増えていることです。
本稿では、実需と投資が重なり合う現在の住宅市場を整理します。
1億円が「特別」でなくなった市場環境
東京23区では、新築マンションの平均価格が1億円台に乗り、中古も70㎡換算で1億円を超える水準となっています。
価格上昇の要因としては、建築資材価格の高騰、人件費上昇、用地取得競争の激化、供給制約などが挙げられます。しかしそれだけではありません。
共働き世帯の増加により、世帯年収1500万円~2000万円規模のいわゆるパワーカップルが増えています。夫婦それぞれが安定収入を持つことで、金融機関の与信枠が拡大し、借入可能額が大きくなります。
価格が上がったというより、「借りられる金額が増えた」ことも価格上昇を後押ししている構造があります。
ペアローンと超長期ローンのインパクト
現在の住宅ローン市場の特徴は、次の二点です。
・夫婦それぞれが主債務者となるペアローン
・40年~50年といった超長期ローン
ペアローンは単独ローンに比べ借入総額を増やせます。さらに返済期間を50年に延ばせば、月々の返済額は抑えられます。
例えば1億円超の借入であっても、返済期間を延ばせば月額負担は抑制できます。その結果、「35年の単独ローンでは届かなかった物件」にも手が届くようになります。
ただし、ここで重要なのは、多くの若年層が「50年間住み続ける前提」で借りていない点です。
「半投半住」という行動様式
現在の購入層には、次のような発想が見られます。
・将来は住み替える
・売却益を次の住宅の頭金にする
・価格上昇を前提にレバレッジを活用する
これは純粋な投資でもなく、純粋な居住目的でもありません。
いわば「半投半住」です。
超長期ローンで毎月のキャッシュフローを抑え、価格上昇局面では含み益を得る。この構図が成立する限り、実需と投資の境界は曖昧になります。
特にNISAなどの資産運用と比較しながら「金利より高い利回りで運用できるなら、全額借りる方が合理的」という考え方も広がっています。
住宅はもはや単なる消費財ではなく、レバレッジをかけた資産運用対象としても認識されつつあります。
想定すべきリスク
しかし、この構造は価格上昇を前提としています。
将来、
・金利が上昇する
・需要が減少する
・エリアの人気が低下する
といった環境変化が起きれば、売却価格がローン残高を下回る「残債割れ」が生じる可能性があります。
超長期ローンは元本の減りが遅いという特徴があります。早期売却時に想定より残債が多いという事態も起こり得ます。
また、ペアローン特有のリスクもあります。
・離婚時の債務処理
・どちらかの収入減少
・団体信用生命保険の保障差
借入額が大きい分、前提が崩れた場合の影響も大きくなります。
住宅は消費か、金融商品か
現在の東京のマンション市場は、住宅市場であると同時に金融市場でもあります。
住宅は
・居住機能
・資産形成手段
・レバレッジ投資商品
という三つの顔を持つ存在になっています。
ただし、住宅は株式や投資信託のように高い流動性を持つ金融商品ではありません。売却には時間がかかり、市況に左右されます。
「売れる前提」で組んだ資金計画は、環境変化に弱いという側面があります。
結論
億ション時代の住宅購入は、実需と投資が重なり合う新しい局面に入っています。
ペアローンと超長期ローンは、若い世代の選択肢を広げました。しかしそれは同時に、将来の価格動向への依存度を高める構造でもあります。
購入を検討する際には、少なくとも次の三点を確認すべきです。
- 金利上昇時の返済シミュレーション
- 売却価格が下落した場合の残債状況
- 夫婦収入が減少した場合の耐性
価格上昇局面ではリスクは見えにくくなります。
だからこそ、「上がる前提」ではなく「下がった場合」を織り込んだ設計が必要です。
住宅を半投半住で考える時代だからこそ、冷静な前提確認がより重要になっています。
参考
・日本経済新聞 朝刊 2026年2月18日「億ション、重なる実需・投資」
・不動産経済研究所「2025年 首都圏新築マンション市場動向」
・東京カンテイ「2025年 中古マンション価格データ」

