住宅ローンの借換えは、金利低下局面では合理的な選択肢です。一方で、将来の自宅売却を見据えると、住宅税制は「住宅ローン控除」だけでは完結しません。譲渡時には、いわゆる3,000万円特別控除(居住用財産の譲渡所得の特別控除)が登場します。
借換えは金利の問題に見えますが、実際には「取得段階の税制(住宅ローン控除)」と「譲渡段階の税制(3,000万円特別控除)」の接点をどう設計するかという論点でもあります。本稿では、その交錯点を整理します。
3,000万円特別控除の基本構造
自宅(居住用財産)を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。所有期間にかかわらず適用可能で、居住実態など一定の要件を満たせば利用できます。
ポイントは次の3点です。
1.マイホームであること(居住実態)
2.譲渡年の1月1日現在で所有期間が5年超なら軽減税率の併用可能
3.住宅ローン残高の有無は制度要件ではない
つまり、住宅ローンが残っていても制度は使えます。ただし、資金繰りや税額計算において借換えの影響が間接的に効いてきます。
借換えが将来の譲渡設計に与える影響
1.残債圧縮型か、長期化型か
借換えで返済期間を延ばすと、毎月返済額は減る一方、将来売却時の残債は増えやすくなります。
譲渡所得の計算上、ローン残高自体は直接影響しませんが、売却時の手取り資金や住替え原資には影響します。
税額がゼロでも、残債が多ければ資金不足が生じる可能性があります。
2.住宅ローン控除の残存期間との関係
住宅ローン控除の残存期間が長い状態で売却すると、当然ながらその後の控除は使えません。
借換えにより返済期間を延ばしても、控除期間自体は延長されません。
したがって、
・控除残存年数
・売却予定時期
を照らし合わせて借換えを判断する必要があります。
3.転居後の取扱い
転勤や住替えで自宅を賃貸に出す場合、住宅ローン控除は原則適用できません。一方で、3,000万円特別控除は「住まなくなってから3年目の年末まで」に売却すれば適用可能です。
借換え後に賃貸化する場合、
・控除は止まる
・将来売却時は3,000万円特別控除が使える
という時間差が生じます。
この「制度の時間軸のズレ」が、設計上の重要論点です。
借換え時に確認すべき5つの視点
1.売却予定はあるか
2.控除残存期間は何年か
3.借換えで返済期間は延びるか
4.将来の住替え時期はいつか
5.賃貸化の可能性はあるか
借換えは現在価値の最適化ですが、3,000万円特別控除は将来価値の最適化です。
両者は別制度でありながら、ライフプラン上は連続しています。
短期譲渡・長期譲渡との関係
所有期間が5年以下の場合は短期譲渡となり、税率が高くなります。
借換えそのものは所有期間に影響しませんが、売却タイミングの判断に影響します。
例えば、
・控除残存2年
・所有期間4年
という状況で売却すると、短期譲渡となり税率が高くなります。
借換え判断時に、所有期間のカウントも同時に確認すべきです。
ペアローン・共有持分との交錯
ペアローンで持分を変更した場合、将来売却時の譲渡所得計算にも影響します。
共有割合がそのまま譲渡所得の按分割合になります。
借換えで債務割合を変更しても、所有持分を変更しなければ譲渡所得割合は変わりません。
ここに「債務」と「所有」のズレが生じます。
借換えは金融契約ですが、売却時は民法上の所有権割合が基準になります。
制度横断で見ると何が見えるか
住宅ローン控除は「取得支援税制」、3,000万円特別控除は「譲渡調整税制」です。
取得段階では税額控除、
譲渡段階では所得控除。
税制の性質が異なるため、同時に最大化することはできません。
控除期間を使い切る前に売却するのか、
控除を優先して長期保有するのか。
ここに戦略判断が生まれます。
結論
借換えは金利の話ではなく、住宅税制を横断した設計問題です。
3,000万円特別控除との交錯点は次の3点に集約されます。
1.売却時期との整合
2.控除残存期間とのバランス
3.返済期間と残債水準の設計
住宅税制は、取得・保有・譲渡という時間軸で設計されています。
借換えを行う際は、現在の返済額だけでなく、将来の譲渡税制まで視野に入れて判断することが、家計全体の最適化につながります。
参考
・国税庁「住宅借入金等特別控除のあらまし」令和7年分
・国税庁「マイホームを売ったときの特例」令和7年版
・税のしるべ 2026年2月23日号「住宅ローン控除に係るマイナポ連携のFAQを更新」

