近年、日本の金利環境は長く続いた超低金利の時代から徐々に変化しつつあります。その影響は家計の資産運用にも現れています。2026年に入り、個人向け国債の販売額が大きく増加し、19年ぶりの高水準となりました。
個人向け国債は、国が元本を保証する金融商品として知られていますが、長年にわたり金利が極めて低かったため、資産運用の選択肢として大きく注目されることは多くありませんでした。しかし金利上昇の局面では、その位置づけが大きく変わります。
本稿では、個人向け国債の販売増加の背景と、日本の家計資産における国債の位置づけについて整理します。
個人向け国債の発行額は19年ぶりの高水準
財務省の公表によると、2025年度の個人向け国債の販売額は約6兆1526億円となり、前年度から36.9%増加しました。これは19年ぶりの高い水準です。
2026年3月発行分だけでも約8743億円が募集されており、個人投資家の資金が国債に流入している状況が明らかになっています。
個人向け国債は個人だけが購入できる国債で、次の3種類があります。
- 変動金利型10年債
- 固定金利型5年債
- 固定金利型3年債
いずれも半年ごとに利子が支払われ、発行から1年後には中途換金が可能です。また、最低金利0.05%が保証されている点も特徴です。
金融機関や証券会社、郵便局の窓口のほか、インターネットでも購入することができます。
金利上昇が個人資金を国債に向かわせる
今回の販売増加の最大の理由は、金利の上昇です。
2026年3月発行分の利率は、すべての銘柄で過去最高水準となりました。主な利率は次のとおりです。
- 固定5年債 1.66%
- 固定3年債 1.39%
- 変動10年債(初回) 1.48%
特に固定5年債の利率は、メガバンクの5年定期預金の約2倍とされています。預金金利が長く低迷していた日本では、これだけの利率差があると、資金が動くのは自然な流れです。
その結果、2025年度に最も人気が高かったのは固定5年債で、発行額は約3兆円と前年度の2倍以上になりました。一方で、金利が変動する10年債の販売はやや減少しています。
これは、現在の金利水準を固定したいという投資家心理の表れとも考えられます。
背景にあるのは国債金利の上昇
個人向け国債の利率は、市場金利に基づいて決定されます。つまり、日本国債の利回りが上昇すれば、個人向け国債の利率も上昇します。
2026年初めには、新発10年国債の利回りが上昇しました。背景には、次のような要因があります。
- 消費税減税を巡る政治議論
- 財政拡張への警戒
- 日銀の国債買い入れ縮小
これらの要因が重なり、長期金利が高止まりしました。その結果、個人向け国債の利率も上昇し、販売増加につながったとみられています。
家計の国債保有はまだ小さい
家計による国債保有は増加しているものの、日本全体の国債市場から見るとまだ小さい規模です。
2025年9月末時点の資金循環統計では、家計の国債・財投債の保有残高は約17兆円でした。前年から21%以上増加しています。
しかし、日本国債の発行残高は約1185兆円に達しており、そのうち家計が保有する割合は約1.5%にすぎません。
さらに、日本の家計金融資産全体から見ても、国債の割合は1%未満です。
つまり、日本の家計は依然として
- 現金・預金中心の資産構成
- 国債の保有割合は非常に低い
という状況にあります。
家計が国債を保有する意味
国債市場では、日銀が大きな割合を保有してきました。しかし近年は、日銀が国債買い入れを徐々に減らしています。
その結果、政府は新たな買い手の存在を必要としています。その候補の一つが家計資金です。
家計の投資行動には、次のような特徴があります。
- 長期保有を前提とする
- 短期売買が少ない
- 安定資産として保有する
金融機関や海外投資家が市場環境によって売買を繰り返すのに対し、家計資金は市場を安定させる役割を果たす可能性があります。
そのため政府は、個人向け国債の販売拡大に期待を寄せています。
結論
金利上昇の影響により、個人向け国債への関心が再び高まっています。2025年度の販売額は19年ぶりの高水準となり、日本の家計資産の動きにも変化が見られ始めています。
ただし、日本の家計金融資産の中で国債の割合は依然として非常に小さく、今後拡大する余地は大きいと考えられます。
日銀の国債買い入れが縮小するなか、個人資金が国債市場の新たな担い手になる可能性があります。金利環境の変化は、家計の資産運用と国債市場の構造の双方に影響を与え始めているといえるでしょう。
参考
日本経済新聞「個人向け国債、今年度発行額6.1兆円 36.9%増 金利上昇で人気高まる」2026年3月6日朝刊
財務省 個人向け国債に関する公表資料
日本銀行 資金循環統計(2025年9月末)

