確定申告を終えたこの時期は、「次の1年をどう経営するか」を見直す絶好のタイミングです。
収支が明確になった今こそ、節税と資金繰りの両立を意識することで、事業の安定性を高めることができます。
単に「経費を増やす節税」ではなく、将来の成長につながる節税・資金戦略を取ることが、今後の個人事業に求められます。
今回は、確定申告後にすぐ実践できる「経営改善のための節税と資金繰り策」を整理します。
節税の基本は「事業投資」と「所得分散」
個人事業主の節税は、単なる支出ではなく「未来への投資」として考えることが重要です。
① 事業投資型の節税
- 設備投資・ツール導入
PC、プリンター、クラウド会計ソフト、AIツールなど業務効率化設備は即時償却対象になりやすい。 - 広告・ブランディング費用
ホームページ制作費やSNS広告など、将来の売上に貢献する支出は有効経費。 - 教育・研修費
自身のスキルアップや資格取得費用も、業務関連性があれば必要経費となる。 
これらの支出は、単に所得を圧縮するだけでなく、翌年以降の収益向上につながる「攻めの節税」です。
② 所得分散による節税
- 家族への給与支給(青色事業専従者給与)
配偶者や家族が事業を手伝っている場合、合理的な範囲で給与を支払うことで所得を分散可能。 - 小規模企業共済・iDeCoの併用
掛金全額控除により、課税所得を減らしながら老後資金を確保。 - 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)
掛金を経費計上でき、緊急時の資金繰りにも役立つ。 
節税の次に考えるべき「資金繰り」
節税は目的ではなく、資金を健全に回すための手段です。
「手元資金の厚み」を確保することが、経営安定の第一歩です。
① キャッシュフローの「見える化」
- 売上入金日・経費支出日のズレを月次で管理。
 - freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトで「資金繰りレポート」を自動生成。
 - 経費の支払いをクレジットカードにまとめることで、支払サイクルを1か月後ろ倒しにできる。
 
② 銀行口座の「三分割管理」
資金を次の3口座に分けると、資金管理が明確になります。
- 【事業用口座】売上・経費専用
 - 【納税用口座】所得税・消費税・住民税の積立
 - 【生活口座】個人の生活費
 
毎月の収益から一定割合を納税用に取り分けておくことで、「納税資金が足りない」という事態を防げます。
③ 資金繰りに活かせる制度利用
- 小規模企業共済の貸付制度(積立の90%まで借入可能)
 - 日本政策金融公庫の「一時的資金需要対応融資」
 - 自治体の制度融資(信用保証協会付き)
 
これらは低金利かつ審査も柔軟なため、緊急時のキャッシュ確保に役立ちます。
次年度に向けた経営改善の視点
① 粗利益率と固定費を見直す
確定申告書の損益計算書を分析し、次の点を確認しましょう。
- 売上総利益率(粗利率)は前年と比べて上がっているか?
 - 経費の中で「固定化」している支出(サブスク等)は見直す余地があるか?
 
② 税負担率を計算してみる
「納税額 ÷ 所得(利益)」で求められる税負担率を把握すると、
節税余地や控除活用の余地を可視化できます。
青色申告控除や共済控除を最大限活用することで、実効税率を下げることが可能です。
③ 経理の自動化・電子化を推進
電子帳簿保存法対応やAI経理ツールの導入で、
手入力・手計算を減らし、申告作業を「日常業務の延長」に変えていくことが、
次年度の効率化と正確性向上につながります。
税務上の注意点
- 経費性のない支出を無理に計上しないこと(税務署は「節税と脱税」を厳密に区別)
 - クレジット明細や電子領収書を必ず保存(電子帳簿保存法の要件)
 - 共済の掛金は年内支払い分のみ控除対象
 - 事業用資産のプライベート利用割合は、按分根拠を明確にする
 
これらを怠ると、税務調査時に控除否認されるリスクがあります。
結論
確定申告後は、税金を「払って終わり」にするのではなく、
申告結果をもとに節税・資金繰り・経営改善のサイクルを作る時期です。
支出の見直しとキャッシュフロー管理を同時に進めることで、
「節税しながら資金を増やす」経営体質に変えていくことが可能です。
そして、共済制度・電子帳簿保存・クラウド会計をうまく組み合わせれば、
個人事業主でも安定的で持続的な経営基盤を築けます。
出典
・国税庁「個人事業主の税務手引」
・中小企業基盤整備機構「小規模企業共済制度」
・日本政策金融公庫「個人事業者向け融資制度」
・デジタル庁「電子帳簿保存法Q&A」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  