個人事業主にとって、日々の記帳と帳簿管理は確定申告の基礎です。
特に青色申告特別控除(最大65万円)を受けるには、正しい帳簿づけと証憑の保存が欠かせません。
さらに、電子帳簿保存法の改正により、2024年から電子データの保存が完全義務化され、
紙での保管や印刷対応だけでは認められなくなりました。
本稿では、日常業務から電子保存までを一貫して管理するための実務ポイントを整理します。
記帳義務と帳簿の種類
個人事業主は、所得税法第232条により「取引を記録する義務」を負っています。
白色申告者・青色申告者ともに、すべての取引を帳簿に記録し、保存する必要があります。
| 区分 | 主な帳簿 | 保存期間 | 
|---|---|---|
| 主要簿 | 仕訳帳・総勘定元帳 | 7年 | 
| 補助簿 | 現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳 | 7年 | 
| 決算関連 | 貸借対照表・損益計算書 | 7年 | 
| 証憑類 | 請求書・領収書・契約書・納品書 | 7年 | 
青色申告では、複式簿記による正確な帳簿づけが求められますが、
クラウド会計ソフトを利用すれば自動仕訳・残高連携により手間を大幅に削減できます。
電子帳簿保存法の基本
電子帳簿保存法は、紙の帳簿や証憑を電子データで保存することを認めた法律です。
2022年・2024年の改正により、すべての個人事業主・法人に適用されるようになりました。
【電子保存の3区分】
- 電子帳簿等保存:会計ソフトで作成した帳簿データを電子で保存
 - スキャナ保存:紙の領収書・請求書をスキャンして保存
 - 電子取引データ保存:メール添付・クラウド請求書など電子的に受け取ったデータをそのまま保存
 
特に③の電子取引データ保存は義務化されており、印刷して保管するだけでは違法となります。
電子保存の要件
電子保存を行うには、以下の要件を満たす必要があります。
- 改ざん防止措置:タイムスタンプ、または訂正・削除履歴が残るシステムでの保存
 - 検索機能:取引年月日・金額・取引先の条件で検索できること
 - 見読可能性:PCやタブレットで明瞭に表示・印刷できる状態で保存
 - 関係書類の備付:電子取引に関する説明書類(マニュアル)を保管
 
クラウド会計ソフト(freee・弥生・Money Forwardなど)では、これらの要件を自動的に満たす仕組みが整備されています。
電子取引データ保存の実務
電子取引とは、請求書・領収書・見積書などを電子的に授受する取引を指します。
以下のようなデータはすべて電子保存が義務です。
| 取引形態 | 保存対象 | 保存方法 | 
|---|---|---|
| メールで受領した請求書PDF | 添付ファイル全体 | メールまたはPDFをフォルダ管理 | 
| クラウド請求書サービス(Misoca、請求書クラウド等) | 請求書データ | サービスからダウンロードして保存 | 
| ネット通販領収書 | WEB画面・PDF | 画面保存または電子領収書DL | 
| クレジット明細 | CSV・PDF | 月次で保存し、仕訳連携 | 
重要なのは、「データを印刷して紙で保存するだけ」では保存義務を満たさないという点です。
メールやクラウド上のデータをそのまま残すことが求められます。
実務でのデータ整理のコツ
- フォルダ名を「年+月+取引先名」で統一
 - 会計ソフトと同じ名称で取引先フォルダを管理
 - PDFファイル名は「日付_取引先_内容.pdf」とする(例:2025-02-10_〇〇商店_請求書.pdf)
 - 領収書のスキャンは、日付と金額が明瞭に写るよう撮影(スマホOK)
 - クラウドストレージ(Google DriveやDropboxなど)と二重バックアップ
 
電子帳簿保存法対応のアプリを使えば、スマートフォンで撮影した領収書を自動で日付認識・連携できます。
青色申告控除との関係
青色申告特別控除(65万円)を受けるには、
電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告のいずれかが必要です。
紙提出で電子保存も行っていない場合、控除額は55万円に減額されます。
つまり、電子保存を整備することは節税対策にも直結します。
特にクラウド会計ソフトを活用すれば、電子保存とe-Tax送信の両要件を同時に満たすことが可能です。
よくあるトラブルと対策
- 誤って削除したデータを再保存した → 復元履歴を保存し、削除理由を記録
 - メール添付ファイルを印刷して破棄した → メール本文をPDF化して保存代替
 - クラウド請求書サービスを退会 → 退会前にすべての請求書データをダウンロード
 - 検索機能がないフォルダ保存 → ファイル名・フォルダ名に日付と取引先を含めることで代替可
 
税務調査時には、画面で検索・表示できることが求められるため、
「探せる」「見せられる」状態を維持することが重要です。
結論
電子帳簿保存法は、単なる保存義務ではなく、
経理を「紙からデジタルへ」移行させるチャンスでもあります。
正確な記帳とデータ保存を日常業務の中で自動化すれば、
確定申告の負担を軽減し、青色申告控除65万円を確実に受けることができます。
経理は「申告のための作業」から「経営のためのデータ管理」へ――。
今こそ、電子保存を前提とした経理体制へ切り替える時期です。
出典
・国税庁「電子帳簿保存法Q&A」
・国税庁「青色申告特別控除の要件」
・デジタル庁「電子取引データ保存の義務化について」
・中小企業庁「個人事業主の電子化支援ハンドブック」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  