住宅税制と世代間格差 ― 持ち家政策は誰を支えているのか

税理士
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住宅税制は、長年にわたり持ち家取得を後押ししてきました。住宅ローン控除、固定資産税の軽減、譲渡時の3,000万円特別控除など、各段階に支援措置が存在します。

しかし近年、住宅市場を取り巻く環境は大きく変化しています。地価の上昇、建築費の高騰、金利環境の変化などを背景に、若年世代の住宅取得は容易ではなくなっています。

本稿では、住宅税制と世代間格差の関係を整理し、その構造を検証します。


住宅税制は「取得世代」を前提に設計されている

住宅ローン控除は、一定の借入を前提とする税額控除制度です。

前提となるのは、

・安定収入
・金融機関の与信
・自己資金

これらを満たす世帯です。

制度は形式的には世代中立ですが、実際には住宅取得が可能な世代に限定して機能します。


価格上昇と既得世代の優位

都市部を中心に住宅価格は上昇傾向にあります。

その結果、

・既に取得済みの世代 → 資産価値上昇
・これから取得する世代 → 取得負担増大

という構造が生じます。

住宅税制が需要を支えることで価格水準が維持されれば、保有世代にとっては資産価値の維持につながります。

一方、未取得世代にとっては参入障壁が高まります。


金利環境と世代差

長期の超低金利時代に住宅を取得した世代と、金利上昇局面で取得する世代では、総支払額が大きく異なります。

住宅ローン控除は金利そのものを補填する制度ではありません。

そのため、金利負担の差は世代間でそのまま残ります。

制度は横並びでも、経済環境の差は吸収されません。


税制の恩恵を受けられない層の存在

住宅ローン控除は税額控除であるため、所得税額が少ない層では十分に恩恵を受けられません。

若年世代や非正規雇用層では、

・借入可能額が低い
・税額が少ない

という二重の制約が生じます。

結果として、制度の恩恵は安定した中堅層以上に集中しやすくなります。


高齢世代への資産集中

日本の家計資産は高齢世代に集中しています。

住宅はその中核を占めています。

住宅価格が上昇する局面では、既に保有している高齢世代の資産が増加します。

若年世代は、

・高価格で取得
・長期ローン負担

という構造の中で資産形成を開始します。


相続との連続性

住宅資産は相続を通じて次世代へ移転します。

しかし、住宅を取得できなかった世帯は、相続資産の恩恵も限定的です。

住宅税制は取得段階で世代差を生み、その差が相続を通じて固定化される可能性があります。


政策目的と世代公平

住宅政策は、

・景気対策
・少子化対策
・生活基盤の安定

という目的を持ちます。

しかし、これらの目的と世代公平は必ずしも一致しません。

取得支援を強化すると、既存市場の価格維持につながり、若年世代の負担が重くなる可能性があります。


世代間再配分の視点

住宅税制を世代間公平の観点から再設計するとすれば、

1.若年層への重点化
2.所得制限の明確化
3.給付型支援の導入
4.中古住宅流通促進策

などの方向性が考えられます。

取得支援を維持するにしても、対象の明確化が必要となります。


住宅は社会保障か資産政策か

住宅は生活基盤であると同時に、最大の資産です。

社会保障的視点では、居住の安定が重視されます。
資産政策的視点では、保有資産の形成が重視されます。

どちらを優先するかで、世代間格差への評価は変わります。


結論

住宅税制と世代間格差の関係は、次の構造に整理できます。

1.取得可能層への集中
2.価格上昇局面での保有世代優位
3.金利環境の世代差
4.相続による固定化

制度は世代を区別していなくても、経済環境と資産構造の違いが世代差を生みます。

住宅税制を評価する際には、単年度の景気効果だけでなく、世代間の資産分布への影響も視野に入れる必要があります。

住宅政策は経済政策であると同時に、分配政策でもあります。


参考

・国税庁「住宅借入金等特別控除のあらまし」令和7年分
・総務省「家計調査」
・総務省「住宅・土地統計調査」
・内閣府「国民経済計算」

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