伴走型専門家という新しい職業像

経営

大学発スタートアップや中小企業の第二創業など、事業の立ち上げや転換の現場では、単なる助言者ではなく「一緒に走る専門家」が求められています。資金調達、組織設計、税務戦略、ガバナンス、資本政策など、経営の論点は複雑化しています。こうした環境のなかで浮かび上がってきたのが「伴走型専門家」という職業像です。

従来の専門家像と何が違うのか。そして、このモデルは今後どのように広がっていくのか。本稿では、構造的に整理します。


従来型専門家モデルの限界

これまでの専門家モデルは、基本的に「スポット型」でした。

・相談を受ける
・論点を整理する
・法令や制度に照らして助言する
・必要な書類や申告を行う

もちろん、この役割は不可欠です。しかし、事業環境が不確実になるにつれ、単発の助言だけでは十分でなくなってきました。

特にスタートアップや成長企業では、

・事業モデルが未確定
・資本政策が流動的
・組織体制が変化し続ける
・制度改正が頻繁に起こる

といった状況が常態化しています。正解が固定されていない環境では、「その時点での最適解」よりも「継続的な設計」が重要になります。

ここに、伴走型専門家の必要性があります。


伴走型専門家の特徴

伴走型専門家には、いくつかの特徴があります。

第一に、時間軸を共有することです。
短期的な問題解決だけでなく、中期・長期の方向性を見据えて関与します。資本政策であれば、将来の出口戦略や事業承継までを前提に設計します。

第二に、構造を設計することです。
制度や税法を「守る対象」として扱うだけでなく、経営戦略と整合的に組み合わせます。例えば、ストックオプション設計、研究開発税制の活用、法人形態の選択などは、戦略と不可分です。

第三に、翻訳機能を担うことです。
研究者と投資家、経営者と金融機関、企業と行政。立場が異なる者同士の間には言語の壁があります。専門家は、制度言語と経営言語を翻訳する役割を果たします。

第四に、関与の深さです。
単なる外部アドバイザーではなく、時に社外役員的な立場や定例会議への参加など、意思決定プロセスに継続的に関わります。


AI時代における専門家の再定義

近年、生成AIや自動化技術の進展により、定型業務は急速に効率化されています。申告書作成や資料整理、条文検索といった作業は、今後さらに自動化が進むでしょう。

このとき、専門家の価値はどこに残るのでしょうか。

それは「判断」と「設計」にあります。

AIは情報処理や選択肢提示には強みがありますが、事業の文脈を踏まえた構造設計や、将来を見据えたリスク配分の判断は人間の役割です。伴走型専門家は、AIを活用しながらも、最終的な設計責任を担います。

つまり、AIは競合ではなく、伴走型モデルを強化する基盤になります。効率化された時間を、構想設計や戦略議論に振り向けることが可能になります。


ディープテックと伴走型モデル

ディープテック領域では、研究者が経営経験を持たないケースが多くあります。技術の社会実装には、資本政策、規制対応、知的財産戦略など、多面的な設計が不可欠です。

ここで重要なのは、「何を守るか」ではなく「どの順序で成長させるか」という設計思想です。

伴走型専門家は、技術の価値を理解しつつ、事業として成立させる構造を描きます。研究と市場の間に橋を架ける役割ともいえます。

これはスタートアップに限りません。中小企業の事業承継やM&A、連続的な成長戦略においても同様です。単なる税務処理ではなく、資本構造と将来像を統合的に設計する専門性が求められます。


報酬モデルと信頼関係

伴走型専門家モデルでは、報酬設計も変わります。

従来の時間単価型や作業単位型から、
・顧問契約型
・プロジェクト型
・成功報酬型
・エクイティ参加型

など、多様な形態が考えられます。

重要なのは、短期的なコスト対価関係ではなく、価値創造に対する共有意識です。経営者と専門家が同じ方向を向けるかどうかが、成果を左右します。

信頼関係は一朝一夕には築けません。継続的な対話と透明性が前提になります。


専門家のキャリア設計の変化

伴走型モデルが広がると、専門家自身のキャリアも変わります。

・特定分野への専門特化
・業界横断的な知見の蓄積
・ITやAI活用能力
・コミュニケーション力

これらがより重視されます。

単に資格を持つだけでは差別化が難しくなります。設計思想や価値観を明確に打ち出せるかどうかが重要になります。

専門家は「業務提供者」から「構想支援者」へと役割を拡張していく可能性があります。


結論

伴走型専門家とは、問題解決者ではなく構造設計者です。

不確実性が高まる時代においては、単発の助言よりも、長期的な方向性を共有する関係性が重視されます。AIの進展により定型業務が縮小する一方で、設計力や判断力の価値はむしろ高まります。

ディープテック、スタートアップ、中小企業の成長戦略など、多様な領域でこの職業像は求められています。

専門家がどの位置に立つのか。
外部から評価する存在か、内側で共に走る存在か。

その選択が、これからの専門職の未来を左右するといえます。


参考

日本経済新聞「STARTUP X 変化を探る黒子たち(5)研究者の起業、プロが伴走」2026年2月26日 朝刊
経済産業省「大学発ベンチャー表彰」公表資料 2025年版
内閣府「スタートアップ育成5か年計画」2022年11月公表資料

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