近年、上場企業における会計不正が相次いで発覚しています。
企業統治改革や資本市場改革が進む一方で、不正はなくなっていません。
なぜ不正は繰り返されるのでしょうか。
制度は整ってきたはずなのに、なぜ防げないのでしょうか。
本稿では、最近の報道や専門家の指摘を手がかりに、会計不正の背景と、企業に求められる再設計の方向性を整理します。
ROE時代の圧力と「不正の動機」
東京証券取引所は近年、資本コストや株価を意識した経営を強く求めています。
自己資本利益率(ROE)などの定量目標を掲げる企業も増えました。
本来これは健全な市場規律です。しかし、数値目標が強いプレッシャーとなり、現場に過度な達成圧力がかかると、不正の「動機」になり得ます。
不正の三要素(動機・機会・正当化)のうち、動機が強まる環境が整ってしまうのです。
問題は、目標設定そのものではありません。
「目標未達=失敗」という硬直的文化や、短期的評価への過度な傾斜こそが、粉飾や架空計上といった逸脱行為の温床になります。
資本市場改革と内部統制の高度化は、同時進行で設計されなければなりません。
「形だけガバナンス」の限界
2015年に導入された コーポレートガバナンス・コード により、社外取締役の増加や監査体制の整備は進みました。
しかし、制度を整えただけでは機能しません。
社外取締役が多数いても、経営者に対して実質的に異議を唱えられなければ意味はありません。
監査等委員会を設置しても、実効性が伴わなければ「仏作って魂入れず」になります。
形式的整備と実質的機能は別問題です。
とくに重要なのは内部監査です。
外部監査だけでは不正を防げません。内部監査部門が経営トップに対して独立性を保ち、リスクを直接伝えられる体制が不可欠です。
内部監査を単なるバックオフィスの一部署として扱う企業では、早期警戒機能は働きません。
米国型「経営者宣誓」から学ぶもの
米国では、年次財務報告書においてCEO・CFOが内部統制の有効性や重要な欠陥の不存在を具体的に宣誓します。
不正が判明した場合、経営者個人の責任が明確になります。
この制度的背景には、2002年制定の サーベンス・オクスリー法 があります。
同法は、経営者認証制度の導入、内部統制報告制度の強化、重い刑事罰などを定めました。粉飾決算に対する罰金や禁錮刑は非常に重く、投資家訴訟(クラスアクション)リスクも大きいのが特徴です。
一方、日本の有価証券報告書における経営者確認は比較的簡素です。
経営者宣誓の具体化は、単なる厳罰化ではありません。
「最終責任は自分にある」という意識を制度として明示する効果があります。
経営者の心理的距離を縮める制度設計が必要です。
発覚時の“備え”が決定的に重要
どんな企業でも不正は起こり得ます。
問題は、発覚時にどう動くかです。
・調査の指揮命令系統は明確か
・第三者委員会設置の基準は定めているか
・監査法人との連携ルールはあるか
・取締役会への報告フローは整理されているか
これらが事前に決まっていない企業は少なくありません。
不正の疑いが出た瞬間に混乱すれば、二次不祥事や情報隠蔽が発生します。
危機対応体制は「発生後」ではなく「発生前」に設計しておくべきものです。
監査の透明化という論点
監査の品質は外部から見えにくいという課題があります。
監査報酬は開示されていますが、投入された監査時間は一般に明らかではありません。
監査時間の開示は、監査資源がどの程度投下されていたかを判断する材料になります。
監査品質の可視化は、投資家との信頼関係構築に資する可能性があります。
監査はコストではなく、信頼インフラです。
結論
会計不正は、個人の倫理問題だけではありません。
制度設計、目標管理、組織文化、監査体制、経営者責任の在り方が複雑に絡み合っています。
資本市場改革が進む今こそ、
・短期目標と内部統制のバランス
・形式から実質へのガバナンス転換
・経営者責任の明確化
・内部監査の高度化
・発覚時対応の事前設計
といった論点を総合的に再設計する必要があります。
信頼は、企業価値の前提条件です。
信頼を損なえば、資金は離れます。
会計不正問題は、単なるコンプライアンスの話ではありません。
企業経営の根幹に関わるテーマなのです。
参考
日本経済新聞 2026年2月28日朝刊
「相次ぐ会計不正、識者に聞く」
「発覚備え体制整備を」
「監査、内外で連携必要」

