企業経営に欠かせない「固定費の適正化」――削減ではなく“最適化”という発想で、財務体質を強くする

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企業経営では、売上の増減に目が行きがちですが、収益と同じくらい重要なのが「固定費」の見直しです。
固定費を抑えられれば黒字を確保しやすくなり、財務体質の強化にもつながります。
ただし、やみくもに「削減」するだけでは、思わぬ副作用が生じることもあります。
今回は、固定費を“適正化”するための考え方と実践ポイントを見ていきましょう。


固定費とは?まずは「分類」から始めよう

企業のコストは大きく分けて2種類あります。

  • 変動費:売上に応じて増減する費用(原材料費など)
  • 固定費:売上とは関係なく発生する費用(家賃・人件費など)

中小企業庁が公表している分類表(図表1)によると、固定費には人件費・家賃・光熱費・減価償却費・保険料・修繕費などが含まれます。
ただし、「これは固定費」「これは変動費」と明確に線を引けるわけではありません。
自社にとっての“実態ベース”で判断することが重要です。


「削減」ではなく「適正化」の発想で

株式会社アクトプロの大原正義社長は、こう指摘しています。

「コストの最適化を“削減”と捉えてはいけません。
固定費の多くを占める人件費や家賃は、単なるカットではなく“適正化”の視点が大切です。」

たとえば、人件費を減らして短期的に利益を改善できても、
結果的に技術承継が途絶えたり、顧客対応力が低下したりすれば、本末転倒です。
そこで、まず取り組みやすいのが「家賃」や「地代」の見直しです。


家賃の適正化 ― 引っ越しよりも「契約の見直し」

「安いオフィスに移ればいい」と思いがちですが、実際には引っ越しコストや従業員負担が大きく、頻繁には行えません。
むしろ、契約更新時に相場と照らして“適正か”を確認することが重要です。

アクトプロでは、2010年から約5000社を対象に家賃の適正化をサポートし、平均11%の減額実績を上げています。
入居時より相場が下がっている場合など、更新時に見直す余地があるかをチェックしましょう。


固定費適正化のチェックポイント5選

固定費の見直しは、目先のコストカットではなく、中長期的な財務改善の手段です。
以下のポイントを参考に、ムリのない「最適化」を目指しましょう。

① 複数サービスを比較する

電力・ガス・通信などは、複数の事業者が法人向けプランを提供しています。
契約を惰性で続けず、定期的に比較・見直しすることが第一歩です。

② 新しい技術・機器を活用する

LED照明や節水機器、省エネ家電などへの切り替えは、初期費用以上の効果をもたらすことも。
電気代・水道代の節減効果を数字で把握し、投資判断に役立てましょう。

③ 社内の節約意識を高める

電力の「見える化」などを通じて、社員が節電・節水の成果を実感できる仕組みをつくると、持続的に効果が出ます。

④ 契約の集約・再交渉を行う

複合機や通信機器など、拠点ごとにバラバラな契約になっていませんか?
契約先を集約すれば、管理の効率化とコストダウンの両方が実現できます。
再リースや更新時には、内訳を明確にして交渉材料を持つことが肝心です。

⑤ 廃棄・更新コストまで見通す

機器の買い替え時には、廃棄費用やリサイクル対応の有無も確認を。
トナーやインクを回収するリサイクル制度を活用すれば、社会貢献にもつながります。


ペーパーレスとクラウド活用が固定費削減の鍵

IT・通信関連費は、見直し効果の大きい分野です。
不要なオプション契約や、紙での帳票発行などを続けていないか見直しましょう。

  • インターネットFAX・クラウドPBXの導入
  • 固定電話やフリーダイヤルの統廃合
  • サブスク契約のID数・利用頻度の精査
  • インターネットバンキング・電子帳簿保存の活用

こうしたデジタル化・電子化の推進は、固定費の削減と業務効率化を両立します。
「紙のコスト+保管スペース+人件費」をまとめて減らすチャンスです。


少額の費用も“放置しない” ― 定期的な棚卸しを

つい後回しになりがちな、少額の固定費にも注目です。
図表2では、車両費・旅費交通費・保険料・教育費・廃棄物処理費・交際費など、見直しの余地がある項目が多数挙げられています。

たとえば、

  • 出張は本当に必要か?オンラインで代替できないか?
  • 保険の重複加入はないか?
  • 福利厚生や会費の効果は妥当か?

といった観点で、「支出の定期棚卸し」を行うことが重要です。


補助金・制度も活用して“攻めの適正化”へ

最近は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSDGsの推進を目的とした補助金制度も多数あります。
こうした制度を活用すれば、固定費削減のための投資もコスト負担を軽減できます。

また、「修理して使い続ける」よりも「不具合前に入れ替える」方が、結果的に安く済む場合もあります。
値上げ傾向が続く中、「先手の更新」も適正化の一手として検討すべきです。


まとめ:固定費の見直しは「三方よし」の発想で

固定費の見直しを進める際は、取引先や家主にとっても無理のない条件を意識することが大切です。
大原氏が語るように、

「短期的に成果が出ても、関係が損なわれれば本当の適正化ではありません。
“三方よし”の姿勢こそ、持続可能なコスト改善につながります。」

固定費の最適化は、単なるコストカットではなく、
企業体質の健全化・関係性の維持・そして将来の成長余力を生む取り組みです。
「数字を減らす」のではなく、「価値を高める」意識で臨みましょう。


📘出典:企業実務2025年9月号「企業経営に欠かせない“固定費”適正化の図り方」企業経営に欠かせない_固定費_適正化の図り方


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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