企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が掛け金を拠出し、加入者自身が運用を行う年金制度です。運用結果によって将来受け取る年金額が変わる仕組みであり、日本では老後資産形成の重要な制度として広く普及しています。
その企業型DCにおいて、加入者が自ら掛け金を上乗せできる「マッチング拠出」の制度が2026年4月から拡充されます。これまで制度上の制約により十分に活用されていなかった部分が見直されることで、企業型DCを利用した資産形成の選択肢は大きく変わる可能性があります。
今回の改正は、個人型確定拠出年金(iDeCo)との関係にも影響する重要な制度変更です。本稿では、マッチング拠出の仕組みと今回の改正のポイント、そしてiDeCoとの選択の考え方を整理します。
企業型DCとマッチング拠出の基本
企業型確定拠出年金(DC)は、企業が拠出した掛け金を従業員が自ら運用する制度です。運用益は非課税となり、受給時には年金または一時金として受け取ることができます。
この企業型DCには、企業の掛け金とは別に、加入者自身が掛け金を追加できる「マッチング拠出」という仕組みがあります。自分で拠出した掛け金は所得控除の対象となり、所得税・住民税の負担軽減につながります。また、運用益も非課税となるため、税制面ではiDeCoと同様の優遇を受けることができます。
ただし制度上、企業型DCの加入者は「マッチング拠出」と「iDeCo」のいずれか一方しか利用できません。そのため、どちらを選ぶかは資産形成における重要な判断になります。
企業型DCの加入者は増加しており、2025年3月末時点では約862万人に達しています。そのうち約414万人の勤務先ではマッチング制度が導入されていますが、実際の利用者は141万人程度にとどまっています。制度の認知度や拠出制限の影響により、十分に活用されていないのが現状です。
今回の制度改正のポイント
マッチング拠出が広がらなかった大きな理由の一つは、拠出額の制限でした。
従来は以下の2つの制約がありました。
- 企業型DC全体の上限(月5万5000円)以内であること
- 自己拠出額は会社の掛け金以下であること
例えば企業の掛け金が月1万円の場合、マッチング拠出も1万円までしか認められません。制度上の枠は残っていても、実際には拠出できない金額が多く発生していました。
2026年4月からは、この「会社掛け金以下」という制限が撤廃されます。これにより、会社の掛け金を上回る拠出が可能になります。
さらに、2026年12月からは企業型DCの拠出上限そのものが拡大され、月6万2000円まで利用できるようになります。
この改正により、例えば会社掛け金が1万円の場合でも、最大4万5000円程度まで自己拠出できるケースが生まれます。これまで利用できなかった非課税枠を活用できるようになる点は大きな変化です。
マッチング拠出のメリット
マッチング拠出にはいくつかのメリットがあります。
まず、税制上の優遇です。掛け金は所得控除となり、所得税・住民税の軽減につながります。さらに、運用益も非課税となります。
また、給与天引きで拠出されるため、手続きが簡単という特徴もあります。iDeCoの場合は年末調整や確定申告で控除を申告する必要がありますが、マッチング拠出は給与計算に反映されるため、手続き漏れが起きにくい仕組みです。
金融機関の試算では、例えば会社掛け金が月1万円、税率20%、積立期間30年、運用利回り4%という条件で、月3万円のマッチング拠出を行った場合、掛け金控除による税負担軽減だけでも30年間で200万円を超える効果があるとされています。
長期の資産形成において、税制優遇と複利効果を同時に活用できる点は大きなメリットといえるでしょう。
iDeCoとの選択をどう考えるか
企業型DCの加入者にとっては、マッチング拠出とiDeCoのどちらを選ぶかが重要な論点になります。
マッチング拠出の利点は、主に次の2点です。
- 口座管理手数料が原則かからない
- 給与天引きで手続きが簡単
一方で、iDeCoには運用商品の選択肢が広いというメリットがあります。金融機関によっては非常に低コストの投資信託を利用できる場合もあります。
企業型DCでは、会社が採用した商品しか選択できません。そのため、運用商品のコストやラインアップによっては、iDeCoの方が有利になる場合もあります。
ただし近年は企業型DCの商品ラインアップも改善されており、低コストのインデックスファンドを採用する企業も増えています。商品内容に大きな差がない場合には、手続きの簡便さやコスト面からマッチング拠出を選ぶ合理性は高いといえるでしょう。
制度改正がもたらす影響
今回の制度改正により、企業型DCを活用した老後資産形成の可能性は大きく広がります。
これまで拠出制限のために活用できなかった非課税枠が使えるようになり、企業型DCだけで老後資産形成を行うケースも増える可能性があります。また、iDeCoからマッチング拠出へ切り替える人も一定数出てくると考えられます。
ただし制度の運用は企業ごとに異なります。掛け金変更のタイミングや制度対応の時期は企業ごとに違うため、自社の制度内容を確認することが重要です。
結論
企業型DCのマッチング拠出は、税制優遇を活用した老後資産形成の重要な制度です。今回の制度改正によって拠出制限が緩和されることで、その活用余地は大きく広がります。
企業型DCの加入者にとっては、マッチング拠出とiDeCoのどちらを利用するかを改めて検討する機会になるでしょう。運用商品の内容、コスト、手続きの利便性などを比較しながら、自分に合った制度を選択することが重要になります。
老後資産形成の制度は、税制改正や制度変更によって環境が変わり続けています。制度の仕組みを理解し、自分の資産形成戦略にどう取り入れるかを考えることが、これからますます重要になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞「企業型DCに自分で上乗せ マッチング拠出、来月拡充」2026年3月7日朝刊
運営管理機関連絡協議会 確定拠出年金統計資料
厚生労働省 確定拠出年金制度関連資料

