前回は、2026年度税制改正で拡充された「企業の地方移転税制」の全体像を整理しました。
第2回となる本稿では、中小企業の立場から、この制度をどのように使うべきか、実務上の判断ポイントに焦点を当てて考えます。
税額控除や特別償却の数字だけを見るのではなく、経営判断として何を確認すべきかが重要です。
「移転型」と「拡充型」どちらを選ぶか
制度は大きく「移転型」と「拡充型」に分かれています。
移転型は、東京23区から地方へ本社機能を移すケース、拡充型は、すでに地方にある拠点の本社機能を強化する、または雇用創出効果の高い地域へ移すケースです。
中小企業の場合、形式上は「移転型」に該当しても、実態として本社機能が分散しているケースも少なくありません。
登記上の本店所在地、意思決定機能、管理部門の実態がどこにあるのかを整理したうえで、制度要件に適合するかを事前に確認する必要があります。
新築か中古か ― 投資判断の分かれ目
今回の改正で、中古物件の購入・改修が新たに対象となりました。
中小企業にとっては、新築よりも中古物件の方が現実的な選択となる場面が多いでしょう。
中古物件の場合、税額控除率や特別償却率は新築より低く設定されていますが、取得価額自体が抑えられるため、投資回収期間は短くなる傾向があります。
重要なのは、「税制上どちらが有利か」ではなく、「事業として無理のない規模かどうか」です。
税額控除と特別償却の選択
本制度では、税額控除と特別償却のいずれかを選択できます。
ここでの判断は、企業の利益水準と将来見通しによって変わります。
当期に十分な利益が見込める場合は、税額控除の効果を実感しやすい一方、利益が不安定な場合は、特別償却で将来にわたって費用化する方が適するケースもあります。
単年度の節税効果だけでなく、数年単位での利益計画と合わせて検討することが欠かせません。
雇用要件と人材確保の現実
新築物件の上乗せ措置では、中小企業で20人以上の雇用増加といった要件が設けられています。
この数字は、制度上は明確ですが、実務では簡単ではありません。
地方では人材確保そのものが課題となる地域も多く、計画どおりに雇用が増えないリスクもあります。
雇用要件を満たすことを前提に投資を行い、結果として要件未達となると、想定していた税制メリットが得られない可能性があります。
補助金・他制度との併用
地方移転に関する支援は、税制だけではありません。
国や自治体の補助金、助成金、家賃補助などが併用できるケースもあります。
ただし、補助金と税制優遇の併用には制限が設けられることもあり、取得価額の調整や計算方法に注意が必要です。
「全部使えばお得」と単純に考えず、制度ごとの趣旨と制約を整理したうえで進めることが重要です。
地方移転は節税目的で決めるべきではない
この制度は魅力的ですが、最大の注意点は「節税ありき」で判断しないことです。
税制優遇はあくまで補助的な要素であり、事業戦略そのものを代替するものではありません。
移転後の売上構造、取引先との関係、経営管理体制が維持できるかを十分に検討せずに進めると、結果的にコスト増となる可能性もあります。
結論
地方移転税制の拡充は、中小企業にとって選択肢を広げる改正です。
特に中古物件が対象となったことで、現実的な検討が可能になりました。
一方で、制度を「使えるかどうか」だけでなく、「使うべきかどうか」を見極める視点が不可欠です。
税制は判断材料の一つにすぎません。
事業の持続性、地域との相性、人材の確保まで含めて考えることが、中小企業にとっての正しい使い方といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「企業の地方移転に税優遇 中古物件購入も対象に」
・2026年度 税制改正大綱(地方創生・法人税関係)
