2025年10月30日の最高裁判決は、
人身傷害補償保険に関する法的・税務的な位置づけを明確にしました。
被保険者が死亡した場合の保険金請求権は「相続財産に含まれる」との判断。
この一言が、保険契約、相続税申告、そしてFP・税理士の実務に大きな影響を与えます。
本稿では、シリーズ全4回の要点を総括し、
実務で確認すべきチェックリストを整理します。
第1章 最高裁判決の意義と背景
- 判決日:2025年10月30日(最高裁第1小法廷・堺徹裁判長)
- 結論:「人身傷害条項に基づく保険金請求権は、被保険者に生じた損害を補填するものであり、被保険者本人に発生し、相続財産に属する」
- 争点:死亡した被保険者の母親が、子の相続放棄後に保険金を請求できるか
この判断により、従来あいまいだった「人身傷害保険金の法的性質」が明確化されました。
生命保険のように「受取人固有の権利」ではなく、損害保険としての補填債権である点が確立しました。
第2章 FP実務への影響(相談対応の基本)
- 契約内容確認:
人身傷害補償条項の有無、被保険者範囲、契約者との関係を確認。 - 相続関係の把握:
戸籍・相続放棄の有無を確認し、法定相続人を確定。 - 請求手続の支援:
保険会社への請求書提出、事故証明・診断書の取得支援。 - 税務面の助言:
相続税の対象である旨を説明(生命保険との違いを明示)。
FPの役割は、遺族に「何を、どこまで請求できるか」を整理し、
税理士・弁護士と連携して手続をスムーズに導くことです。
第3章 税理士実務への影響(課税区分・評価・放棄時処理)
- 課税区分
- 人身傷害保険金は「相続財産」
- 生命保険金のような500万円非課税枠は適用なし - 評価方法
- 被相続人死亡時の支払見込額を債権評価(財産評価基本通達192)
- 遅延損害金や支払後の利息は評価対象外 - 相続放棄時の承継
- 放棄者は初めから相続人でなかったものとみなされ、
次順位相続人(父母など)が請求権を承継 - 申告実務
- 「債権・その他の財産」として記載
- 生命保険非課税枠との混同に注意
第4章 法人契約・個人契約の税務処理
- 法人契約
- 保険料:損金算入可
- 保険金:原則益金算入
- ただし役員・従業員への補償支給は損金算入(給与課税なし) - 個人契約(個人事業主等)
- 事業用部分の保険料:必要経費算入
- 死亡・傷害補償金:非課税所得(ただし相続税課税対象) - 留意点
- 社用車私用分の按分
- 定額死亡補償特約の有無(給与・福利厚生費扱いの判断)
- 証拠書類の保存(契約証書・支払通知書・事故報告書)
第5章 統合チェックリスト(FP・税理士共通)
| チェック項目 | 確認ポイント | 関連実務者 |
|---|---|---|
| 1. 契約内容 | 契約者・被保険者・補償範囲を確認 | FP/税理士 |
| 2. 相続関係 | 戸籍・相続放棄の確認、相続順位の確定 | FP/司法書士 |
| 3. 保険金の法的性質 | 損害補填契約として相続財産に含まれる | 税理士 |
| 4. 課税区分 | 相続税課税対象、非課税枠なし | 税理士 |
| 5. 評価方法 | 債権評価(通達192)、支払見込額を採用 | 税理士 |
| 6. 保険料処理 | 法人:損金算入、個人:経費按分 | 税理士 |
| 7. 保険金処理 | 法人:益金または損金、個人:非課税/相続税課税 | 税理士 |
| 8. 書類保存 | 契約証・事故証・保険会社通知を保存 | FP/税理士 |
| 9. 他保険との区分 | 損害保険(人身傷害)と生命保険の混同防止 | FP/税理士 |
| 10. 顧客説明 | 非課税枠の有無・承継の流れを明確に説明 | FP |
第6章 今後の展望
人身傷害補償保険は、従来は実務上「生命保険に近い」と誤解される場面もありました。
今回の最高裁判断を契機に、
税務・法務・FP実務が「損害保険としての原則」に立ち返る契機となります。
特に、経営者・個人事業主の車両保険契約においては、
契約形態と保険金の帰属関係を明確にし、
将来の相続・税務トラブルを未然に防ぐことが求められます。
結論
人身傷害補償保険は、
- 「損害補填型」であり、
- 「被保険者本人の財産」として扱われ、
- 「相続税課税対象」である、
という三点を軸に整理できます。
FP・税理士が連携し、
保険・相続・税務を一体として捉えることで、
顧客にとって最適な相続・補償設計が可能になります。
出典
- 最高裁判所第1小法廷判決(令和7年10月30日)
- 日本経済新聞「保険金請求権『相続財産に』 最高裁、死亡事故巡り」(2025年10月31日)
- 相続税法第3条・所得税法第9条・法人税基本通達9-3-2
- 財産評価基本通達192「債権の評価」
- 国税庁タックスアンサー No.4152・No.5315
- 三井住友海上火災保険株式会社コメント
シリーズ全体構成
- 第1回 一般解説版:人身傷害保険金の請求権は相続財産に
- 第2回 FP実務版:遺族支援と税務取扱の実務
- 第3回 税理士実務版:課税区分・評価・放棄時処理の整理
- 第4回 法人税務版:人身傷害補償保険の税務と損金処理
- 第5回 本稿(総まとめ):法的・税務・実務チェックリスト
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

