地方交付税制度は、単なる財政テクニックではありません。
それは戦後日本における「地方自治の設計思想」そのものを映し出す制度です。
都市と地方の税収格差が改めて議論される今、交付税制度がどのような歴史を歩んできたのかを整理することは、将来像を考える上で不可欠です。
本稿では、創設から現在までの変遷をたどります。
1 創設期(1950年代)― シャウプ勧告と地方自治の確立
地方交付税制度は1950年、シャウプ勧告を背景に創設されました。
戦前の地方財政は国の補助金依存が強く、地方自治の自主性は限定的でした。そこで、国税の一定割合を地方に自動的に配分する「地方交付税」という仕組みが導入されました。
重要なのは、補助金とは異なり、使途を限定しない一般財源である点です。
この時点で制度の理念は明確でした。
・地方自治の保障
・全国的な行政水準の均衡
・国の裁量を排した自動的配分
財源保障と財政調整という二つの柱は、ここで確立されました。
2 高度成長期(1960~70年代)― 拡大と安定化
高度経済成長期には、地方の行政需要が急増しました。
社会資本整備、福祉拡充、都市化対応などにより、交付税総額は大きく拡大します。
この時期に制度は安定的な財源保障装置として定着しました。一方で、国の財政事情に応じて交付税総額の抑制が行われる局面も生まれ、地方の自立性との緊張関係も表面化します。
財源保障と国の財政規律のバランスが、ここから恒常的な論点となります。
3 バブル期から1990年代 ― 財政危機と特例措置の拡大
バブル崩壊後、国・地方ともに税収が急減しました。
交付税原資である国税収入が落ち込む一方、景気対策や社会保障支出は増加します。
この結果、臨時財政対策債などの特例措置が導入され、交付税の不足分を地方債で補う仕組みが広がりました。
ここで制度は大きく変質します。
本来は国税の一定割合を配分する「自動的制度」であった交付税が、国の財政状況に左右される色彩を強めました。
4 2000年代 ― 三位一体改革と地方分権
2000年代前半、小泉政権下で三位一体改革が進められました。
・国庫補助負担金の削減
・地方交付税の見直し
・税源移譲
を一体で進める改革です。
この過程で、地方消費税の拡充など税源移譲が進みましたが、同時に交付税総額の抑制も行われました。
「地方分権」と「財政健全化」が同時に進められた結果、地方財政の余裕は縮小しました。
交付税は「保障装置」であると同時に、「財政規律の調整弁」としても機能するようになります。
5 2010年代以降 ― 税源偏在と不交付団体問題
近年の最大の論点は、税源の偏在拡大です。
法人課税の集中、デジタル経済の進展、東京一極集中などにより、大都市圏の税収が急増しました。
その結果、不交付団体が増え、「是正不能財源」と呼ばれる部分が拡大しています。
制度上は調整されるはずの格差が、交付税では吸収しきれない局面が現れています。
このため、
・特別法人事業税の拡充
・税源配分の見直し
・固定資産税再配分の議論
といった“交付税の前段階”の調整策が検討されています。
6 制度の変質と現在地
交付税制度は、創設当初の理念から完全に離れたわけではありません。
しかし、次のような変化が起きています。
・自動的制度から、政策調整的制度へ
・財源保障中心から、財政規律との調整へ
・格差是正の中心から、偏在是正の補完へ
制度は進化してきましたが、その役割は複雑化しています。
結論
地方交付税制度は、戦後日本の地方自治を支える基幹制度として発展してきました。
創設期は自治の保障、成長期は拡大と安定、危機期は特例措置、分権期は抑制と移譲、そして現在は偏在是正との再調整の段階にあります。
歴史を振り返ると、制度は常に経済構造や国の財政事情に応じて姿を変えてきました。
現在の議論は、単なる配分技術の問題ではなく、交付税を「何のための制度として再定義するか」という問いに帰着します。
財源保障か。
財政調整か。
地方自治の実質的確保か。
歴史的変遷を踏まえたうえで、次の制度設計を考える必要があります。
参考
・総務省「地方交付税制度の概要」
・財務省 財政制度等審議会資料「地方財政の現状と課題」2025年
・国立国会図書館『レファレンス』第656号「地方交付税制度の問題点と改革論」2005年9月
・日本経済新聞「都市と地方の税収格差(上)」2026年2月16日朝刊
