「自己資本を厚く」から「自己資本を活かす」へ
中小企業の経営指導や顧問業務の中で、
よく聞くのが「とにかく自己資本を厚くしておきたい」という声です。
もちろん、自己資本は会社の“体力”そのもの。
金融機関との関係でも、資本の充実は重要です。
でも――
資本をためること=良い経営
とは限らないのです。
重要なのは、
「自己資本をどれだけ活かして利益を生み出しているか」
つまり、資本の効率です。
この視点が、いま中小企業経営でも欠かせなくなっています。
中小企業でも使える「ROE経営」の考え方
ROE(自己資本利益率)は上場企業だけの指標ではありません。
本来、企業規模を問わず使える“経営効率の指標”です。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)
たとえば、自己資本1億円の会社が500万円の利益を上げているなら、ROEは5%。
これを「10%に引き上げたい」と考えるなら、
単純に利益を倍にするか、資本を半分にするか、という発想になります。
でも、現実はそんな単純ではありません。
そこで税理士の出番です。
税理士が伴走できる「3つのアプローチ」
中小企業でROEを高めるには、
経営の実情に合わせた3つの方向から考えるのが実践的です。
① 利益率を上げる(売上高純利益率の改善)
最も基本的で、王道のアプローチ。
売上に対してどれだけ利益を残せるかを高めます。
税理士が支援できるポイント
- 原価率・販管費率を「見える化」して利益構造を分析
- 低採算商品・取引先を棚卸しし、値決め戦略を提案
- 「粗利重視」型の月次モニタリングを導入
💡 たとえば、売上よりも「限界利益の最大化」を意識すると、
小さな会社でもキャッシュが回りやすくなります。
② 資産効率を上げる(総資産回転率の改善)
次に着目すべきは「資産の回し方」です。
売上を増やさずにROEを上げるには、
使っていない資産を減らす=スリム経営が有効です。
税理士が支援できるポイント
- 不要な遊休資産・過剰在庫・未稼働設備の整理
- 取引条件の見直しによる回収サイト短縮(売掛金管理)
- 設備投資の回収期間・減価償却を踏まえた投資判断支援
💡 固定資産台帳の「眠っている資産」は、
実はROEを押し下げている“隠れコスト”です。
③ 資本構成を最適化する(財務レバレッジの調整)
自己資本比率が高すぎる会社は、
“安全ではあるが、非効率”な状態かもしれません。
「現金預金が多く、借入も少ない」
= 安定しているけれど、資本を眠らせている。
このような企業では、投資・配当・借入のバランス調整がカギになります。
税理士が支援できるポイント
- 過剰な内部留保を活用した成長投資・設備更新の提案
- 金利コストを踏まえた「適正借入」の試算
- 配当戦略や役員退職金の活用による資本最適化
💡 借入金を上手に使うのも、資本効率を高める経営の一つ。
「無借金=優良」とは限りません。
会計で「攻めの経営」を支える時代へ
中小企業では、これまで「節税」が経営の中心テーマになりがちでした。
しかし、今後は税理士が経営の効率化・資本の最適化を支援する役割を担う時代です。
ROEという指標は、その“対話の共通言語”になります。
- いまの利益率で十分か?
- 使っていない資産はないか?
- 自己資本は眠っていないか?
この3点を一緒に考えるだけで、
経営者の“数字に対する視点”は驚くほど変わります。
顧問先と共有したい「ROE対話シート」
実務では、こんな簡単な「対話シート」を使うのもおすすめです👇
| 観点 | 現状 | 改善方向 | 税理士の関与ポイント |
|---|---|---|---|
| 利益率 | ○% | コスト削減/値上げ余地 | 原価分析・月次報告の精度向上 |
| 資産効率 | ○回 | 遊休資産整理/回収改善 | 固定資産棚卸・資金繰り表作成 |
| 資本構成 | ○% | 内部留保の活用/配当方針 | 借入・投資・退職金の最適化 |
顧問先にとって、「ROEを上げよう」と言われてもピンと来ないことが多いですが、
“どの歯車を回せば利益が増えるか”を一緒に見える化すると、経営者の理解が進みます。
税理士が“決算書を未来志向に変える”時代
ROEや自己資本効率は、単なる数字ではなく、
経営者の意思と会計人の知恵が交わる場所です。
税理士が数字を通じて「経営の対話」を促せば、
顧問先の決算は「過去の報告」から「未来の設計図」へと変わります。
中小企業の財務を「守り」から「攻め」へ――。
それを支えるのが、まさに私たち税理士の役割です。
出典
出典:2025年10月11日 日本経済新聞朝刊
「株式投資、『変革』銘柄の選び方」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
