中小企業に広がる選択型福利厚生――カフェテリアプランは賃上げの代替となり得るか

経営

賃上げ圧力が高まる一方で、原材料費や人件費の上昇に直面する中小企業にとって、固定費の増加は大きな経営課題です。そうしたなか、従業員が福利厚生メニューを自由に選べる「カフェテリアプラン」が、中小企業向けに簡素化・低コスト化されて提供され始めています。

福利厚生は「コスト」なのか、それとも「投資」なのか。本稿では、中小企業に特化した選択型福利厚生の動向を整理し、制度設計上の論点と税務上のポイントを確認します。

カフェテリアプランとは何か

カフェテリアプランとは、企業が一定のポイントを従業員に付与し、従業員がその範囲内で食事補助、レジャー、育児支援、自己啓発などのメニューを自由に選択できる制度です。

従来は大企業中心に導入が進み、制度設計に数カ月を要するケースも多く、初期費用も相応に発生していました。そのため、中小企業にとっては導入ハードルが高い制度とされてきました。

しかし、近年は設計項目をあらかじめパッケージ化し、最短2カ月で導入可能とする中小企業特化型プランが登場しています。初期費用の無料化や、1人あたり月額数百円水準の利用料設定など、コスト面での工夫が進んでいます。

なぜ今、中小企業で注目されるのか

背景には三つの要因があります。

第一に、賃上げの原資確保が難しいという現実です。基本給の引上げは固定費化するため、景気変動リスクを抱える中小企業には慎重な判断が求められます。

第二に、人材確保競争の激化です。特に若年層は、給与水準だけでなく、働きやすさや自己成長機会を重視する傾向があります。福利厚生を通じて、企業の姿勢や価値観を示すことは、採用・定着の観点から重要性を増しています。

第三に、従業員の多様化です。独身者、子育て世帯、シニア層など、ライフステージによってニーズは大きく異なります。一律給付型よりも、選択型のほうが合理的との考え方が広がっています。

税務上のポイント――非課税の範囲

カフェテリアプランの実務上の核心は、税務上の取扱いにあります。

福利厚生費として損金算入できるかどうかはもちろんですが、従業員側で給与課税されないかが重要です。

一般に、以下のような条件を満たす場合には、給与課税を回避できる可能性があります。

・全従業員を対象とすること
・社会通念上妥当な金額であること
・換金性が低いこと
・現金支給と同視できないこと

例えば、健康診断や一定の食事補助などは、要件を満たせば非課税とされる場合があります。一方で、現金化可能なポイント設計や、実質的に給与補填と評価される運用は、課税リスクを伴います。

制度導入時には、代行会社の提案内容をそのまま受け入れるのではなく、自社の給与規程や福利厚生規程との整合性を確認することが不可欠です。

「投資」としての福利厚生は成立するか

福利厚生を「投資」と捉える視点は、近年強調されています。

エンゲージメント向上、離職率低下、スキルアップ支援など、間接的な経営効果が期待されます。しかし、その効果は可視化しにくく、費用対効果の検証は容易ではありません。

中小企業においては、次のような視点で判断することが実務的です。

・採用活動において訴求力があるか
・既存従業員の満足度向上につながるか
・管理負担は許容範囲か
・税務リスクをコントロールできるか

単なる流行として導入するのではなく、自社の人事戦略と連動させることが重要です。

今後の制度拡大の可能性

海外と比較すると、日本の福利厚生における非課税範囲は限定的とされています。仮に非課税対象が拡大すれば、企業にとっては賃上げ以外の処遇改善手段としての活用余地が広がる可能性があります。

一方で、税制上の優遇拡大は税収減にもつながり得るため、政策判断としては慎重な議論が求められます。

中小企業にとっては、税制動向を注視しつつ、制度変更に柔軟に対応できる設計とすることが現実的です。

結論

中小企業向けのカフェテリアプランは、導入ハードルの低下により、今後一定の広がりを見せる可能性があります。

ただし、これは賃上げの代替策ではなく、補完策として位置付けるべき制度です。税務リスクを踏まえた設計、従業員ニーズとの適合性、そして経営戦略との整合性があってこそ、福利厚生は「投資」として意味を持ちます。

制度の流行に乗るのではなく、自社にとって何が最適かを問い直すことが、中小企業経営における本質的な判断といえます。


参考

日本経済新聞「福利厚生を自由選択 中小特化のプラン」2026年2月20日朝刊
国税庁 所得税基本通達(福利厚生費の取扱い)

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