中小企業にも無関係ではない 移転価格税制とローカルファイルの実務

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

海外展開は、いまや大企業だけの話ではありません。製造拠点の一部をアジアに持つ企業、海外子会社を通じて販売を行う企業、海外関連会社と資金や役務のやり取りをする企業は、中堅・中小規模でも珍しくありません。

しかし、海外取引があるという事実は、それだけで国際税務の世界に足を踏み入れていることを意味します。特に移転価格税制は、「うちは規模が小さいから関係ない」と言っていられない段階に入っています。本稿では、中小企業の実務に即して、移転価格税制とローカルファイルの位置づけを整理します。

移転価格税制は大企業だけの話か

移転価格税制は、多国籍企業がグループ内取引価格を操作して所得を海外へ移転することを防ぐための制度です。そのため、大企業向けの制度という印象が強くあります。

しかし、制度の対象は「規模」ではなく「国外関連取引の有無」です。海外子会社への役務提供、貸付金、商標使用料の受領など、一定の取引があれば対象となり得ます。

近年は税務当局間の情報交換体制が強化され、海外関連取引の把握精度が高まっています。中小企業であっても例外ではありません。

移転価格税制の基本構造

移転価格税制では、国外関連者との取引価格が独立企業間価格(ALP)に基づいているかが問われます。

第三者間であれば成立しないような価格設定で所得を移転していないかを検証する仕組みです。算定方法としては、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法、取引単位営業利益法などがあり、OECDガイドラインの考え方が基礎となっています。

重要なのは「価格が正しいこと」だけでなく、「その価格に至った合理的な説明ができること」です。

文書化義務とローカルファイル

現在の移転価格制度は、文書化義務と密接に結びついています。

代表的な文書は次の三層構造です。

・マスターファイル
・ローカルファイル
・国別報告書(CbCR)

このうち中小企業に直接関係しやすいのがローカルファイルです。ローカルファイルには、国外関連取引の内容、機能・リスク分析、価格算定方法、財務情報などを記載します。

そして実務上特に重要なのが、いわゆる「60日ルール」です。税務調査で提出を求められた場合、原則60日以内に提出しなければなりません。調査が始まってから慌てて作成するのでは間に合わない可能性があります。

中小企業に起こりやすいリスク

実務では、次のようなケースが問題になりやすい傾向があります。

・本社管理費の配賦根拠が曖昧
・海外子会社への貸付金利が形式的
・ブランド使用料の算定根拠が不十分
・赤字が継続しているにもかかわらず説明資料がない

経営者として合理的な判断をしていても、それが文書として整理されていなければ、税務上は「説明できない」と評価される可能性があります。

移転価格税制では、結果よりもプロセスが重視されます。価格決定の経緯や比較対象の選定理由を体系的に整理しておくことが不可欠です。

なぜ中小企業まで波及しているのか

国際的な情報交換の進展により、各国税務当局は国外関連取引の情報を共有しています。規模が小さいこと自体は、防御理由にはなりません。

さらに、金融機関の融資審査やM&Aのデューデリジェンスにおいても、移転価格リスクは確認対象となることがあります。税務問題は、企業価値評価にも影響を与えます。

実務上の対応

中小企業が現実的に取り組むべき対応は次の三点です。

第一に、国外関連取引の棚卸しです。どのような取引があるかを把握します。

第二に、価格決定プロセスの明文化です。なぜその価格なのかを整理します。

第三に、ローカルファイル相当の資料を事前に整備することです。完璧である必要はありませんが、説明可能性を確保することが重要です。

結論

移転価格税制は、大企業だけの制度ではありません。

国外関連取引がある以上、中小企業もその枠組みの中にあります。特にローカルファイルと60日ルールの存在は、事前準備の重要性を示しています。

規模ではなく取引の有無が出発点です。
「関係ない」ではなく、「どこまで備えるか」という視点で整理することが、将来のリスク軽減につながります。

――――――――――――――――――――

参考

税理士新聞 第1866号(2025年12月25日号)
基礎から学び直す国際税務「移転価格税制を考える」

――――――――――――――――――――

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました