企業不祥事が繰り返されるたびに、「なぜ不正会計はなくならないのか」という問いが投げかけられます。
制度は強化され、監査も高度化しているにもかかわらず、不正は形を変えて発生し続けています。
本稿では、これまで整理してきた論点を踏まえ、不正会計がなくならない理由を「制度」「構造」「人間」の三つの視点から統合的に整理します。
制度の限界―完全な統制は存在しない
まず前提として、どれほど制度を整備しても、不正を完全に防ぐことはできません。
・監査は合理的保証にとどまる
・内部統制は前提に依存する
・規程は形式化しやすい
これらは制度の本質的な限界です。
制度はあくまで「一定のリスクを低減する仕組み」であり、「不正をゼロにする仕組み」ではありません。
そのため、不正は制度の外側ではなく、「制度の内側」で発生します。
構造の問題―現代ビジネスが抱えるリスク
次に、ビジネス構造そのものが不正を生みやすい側面があります。
・無形サービスの拡大
・取引の多層化
・外部企業との連携の増加
これらにより、
・取引の実在性が見えにくくなる
・全体像の把握が困難になる
・責任の所在が曖昧になる
という状況が生まれます。
特に、広告代理店モデルのような無形・多層取引は、不正を「設計可能」にする構造を持っています。
監査の限界―証憑に依存する検証
監査は、証憑を基礎として取引の妥当性を検証します。
しかし、
・証憑が意図的に整えられている場合
・実在性が証憑だけでは判断できない場合
には、検証は困難になります。
さらに、監査は
・サンプルベースで行われる
・リスク評価に依存する
ため、巧妙に設計された不正は見逃される可能性があります。
つまり、監査は不正を「完全に発見する仕組み」ではなく、「一定の確率で発見する仕組み」です。
ガバナンスの限界―見えない領域の拡大
企業グループが拡大するほど、親会社の統制が及ばない領域が生まれます。
・子会社
・孫会社
・外部委託先
これらの関係が複雑になることで、
・情報が断片化する
・報告が歪む
・実態が見えなくなる
という問題が生じます。
形式的には統制が存在していても、実態に踏み込めなければ、不正は防げません。
人間の問題―合理的に不正が選択される瞬間
最終的に、不正は人間の意思決定によって行われます。
しかし、その意思決定は必ずしも非合理ではありません。
・小さな逸脱から始まる
・正当化によって継続される
・引き返せなくなる
というプロセスを経て、不正は「合理的な選択」として認識されることがあります。
さらに、
・業績プレッシャー
・組織文化
・評価制度
がこれを後押しします。
この段階では、不正は個人の問題ではなく、組織の中で再生産される現象となります。
なぜ不正はなくならないのか
これまでの要素を統合すると、不正会計がなくならない理由は明確です。
・制度は完全ではない
・構造が不正を生みやすい
・監査には限界がある
・ガバナンスは見えない領域を持つ
・人間は状況に応じて不正を合理化する
これらが同時に存在する以上、不正を完全に排除することはできません。
不正をなくすのではなく、どう向き合うか
重要なのは、「不正をゼロにする」という発想から離れることです。
現実的な対応は次の三点に集約されます。
・不正が起きる前提でリスクを管理する
・早期に発見できる仕組みを設計する
・発覚後に迅速に是正できる体制を整える
つまり、不正は「防ぐ対象」であると同時に、「管理する対象」でもあります。
結論
不正会計は、制度・構造・人間の三つが交差するところで発生します。
どれか一つを改善するだけでは不十分であり、全体を俯瞰して設計しなければなりません。
・制度に過度な期待をしない
・構造的リスクを理解する
・人間の行動を前提にする
これらを踏まえたとき、初めて現実的な不正対策が見えてきます。
不正会計はなくならない。
しかし、その影響を最小化することは可能です。
今回の事案は、その前提に立った対応の必要性を改めて示しています。
参考
日本経済新聞 2026年3月28日 朝刊
KDDI不正会計の実態は 子会社架空取引で過大計上 資金流出先や経営責任が焦点