相続税の基本的な仕組みや「一次相続」「二次相続」の違いを理解しても、実際にどのくらい税額が変わるのかイメージしにくい方も多いと思います。今回は、具体的な事例を使って、一次相続と二次相続でどのように負担が変わるのかを見ていきましょう。
ケース設定
ここでは次のような家庭を例にします。
- 夫(70歳)が亡くなる → 妻(68歳)と子ども2人が相続人
- 相続財産は 1億2000万円(自宅5000万円、預貯金4000万円、株式3000万円)
- 生命保険金1000万円(契約者・被保険者:夫、受取人:妻)
- 妻は自分名義の財産を2000万円持っている
- 10年後に妻(78歳)が亡くなる二次相続を想定
基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
- 一次相続(相続人3人:妻+子2人) → 基礎控除 4800万円
- 二次相続(相続人2人:子2人) → 基礎控除 4200万円
パターン1:一次相続で妻がすべて相続する場合
まずは「よくある選択肢」である、妻がすべて相続するケースです。
一次相続
- 相続財産1億2000万円+生命保険1000万円
- 課税対象額は基礎控除4800万円を引いても残りますが、配偶者の税額軽減により全額非課税
→ 一次相続の相続税:0円
二次相続(10年後)
- 妻の財産:自分の2000万円+相続した1億3000万円=合計1億5000万円
- 基礎控除4200万円を引いた残りが課税対象
- 相続人は子ども2人 → 相続税率は累進課税で最高30%前後までかかる
試算すると、相続税額は約1700万円前後 となります。
パターン2:一次相続で妻が6000万円、子どもが6000万円を相続する場合
次に、妻と子どもがバランスよく分け合うケースを見てみましょう。
一次相続
- 妻6000万円+子2人で6000万円(3000万円ずつ)
- 妻の相続分は配偶者の税額軽減の範囲内 → 妻は非課税
- 子が相続した分に課税(基礎控除4800万円を差し引くと課税遺産は約7200万円)
- 税額は子ども2人で合計約500万円
→ 一次相続の相続税:約500万円
二次相続(10年後)
- 妻の財産:自分の2000万円+相続した6000万円=8000万円
- 基礎控除4200万円を引いた残りが課税対象
- 相続税は子2人で合計約500万円
→ 二次相続の相続税:約500万円
合計
- 一次500万円+二次500万円=合計1000万円
パターン1(妻が全額相続)よりも、合計税額は約700万円少なくなる結果となります。
パターン3:子どもに重点的に分ける場合
さらに踏み込んで、一次相続で子どもに大きく渡した場合も試算してみましょう。
- 妻4000万円、子ども8000万円(1人あたり4000万円)
一次相続
- 妻の分は非課税
- 子が相続した分に課税 → 合計約1000万円の相続税
二次相続
- 妻の財産:2000万円+4000万円=6000万円
- 基礎控除4200万円との差額が課税対象
- 相続税額は約200万円
合計
- 一次1000万円+二次200万円=合計1200万円
この場合はパターン2よりも税額が増え、パターン1よりは少ないという結果になりました。
シミュレーションからわかること
今回の事例から見えてくるのは、
- 妻にすべて相続させると一次相続はラクだが、二次相続で一気に重くなる
- 子にも分けると一次相続で課税されるが、二次相続の税負担を抑えられる
- 合計の税額でみると「バランスよく分ける」のが有利になるケースが多い
ということです。
「財産の内容」でも結果が変わる
今回のシミュレーションはシンプルに金額だけで考えましたが、実際には「財産の中身」も大きな影響を与えます。
- 自宅の土地 → 「小規模宅地等の特例」で評価額を減らせる
- 株式などの値上がり資産 → 配偶者が持つと二次相続で評価が高くなる可能性
- 預貯金 → 相続人がすぐに使える資産として配分しやすい
財産の種類や今後の値動きを考慮して、誰が何を相続するかを決めることが重要です。
まとめ:シミュレーションの大切さ
相続税の負担は、一次と二次を合わせてみないと本当の姿が見えてきません。
- 一次相続だけを考えて「全部妻に」とするのは危険
- 子にも適度に分けておくと合計の税額を抑えられることが多い
- 財産の内容や家族構成によって最適解は変わる
だからこそ、事前にシミュレーションを行い、複数のパターンを比べることが不可欠です。相続の分け方は「家族の思い」と「税金の計算」の両方をバランスよく考える必要があります。
(参考:日本経済電子版 2025年8月30日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
