東京のマンション市場で、短期転売が都心部に集中しているという報道がありました。築5年以内の比較的新しい物件が取得後まもなく売りに出され、しかも大幅な値上げがなされているという実態です。戸数全体から見れば一部の動きにすぎないものの、その価格形成が周辺相場へ与える影響は小さくありません。本稿では、報道内容を整理しつつ、都心不動産市場の現状と今後の行方について考察します。
短期転売率が都心で上昇している現状
民間調査によれば、2025年における東京23区の築5年以内マンションの平均短期転売率は2.49%でした。前年の2.29%から上昇しています。
特に高いのが都心3区です。千代田区は4.92%、中央区は4.66%、港区は4.57%と、23区平均のおよそ2倍の水準に達しています。さらに、物件単位でみると、全戸数の2割が築5年以内に売り出された事例もあるとされています。
2019年時点では、千代田区の転売率は2.24%でした。2025年にはこれが4.92%へと倍増しています。都心において短期売買が加速している傾向は明らかです。
値上げ率の拡大と価格形成への影響
転売時の価格上昇も顕著です。東京23区平均では、新築時価格に比べ約6割高で売り出されているとされます。中央区や港区では平均で新築価格の2倍という強気な設定も見られます。
もちろん、希望価格と成約価格は一致しません。2026年1月の都心3区では、売り出し希望価格が1平方メートルあたり334万円であったのに対し、成約価格は255万円にとどまりました。売り出し価格と実勢価格の乖離が拡大している状況です。
それでも、高額な売り出し価格が市場に提示されること自体が、周辺相場の「基準」を押し上げる効果を持ちます。一部の成功事例が価格期待を引き上げ、売り手の強気姿勢を助長する構図が生まれます。
在庫増加と市場のひずみ
都心6区のマンション在庫は2026年1月時点で4260戸と、過去最高水準に達しています。売り手の希望価格で成約せず、売れ残る物件が増加していることを示しています。値下げ物件の割合も上昇傾向にあります。
これは、投機的価格上昇が需要の実力を上回りつつある可能性を示唆します。価格上昇に追随できない層が増え、市場が二極化しているともいえます。
行政の対応と政策的課題
短期転売の増加は行政も問題視しています。国土交通省の調査では、取得後1年以内に売却された取引の割合が上昇しているとされています。
千代田区では、新築マンションに5年間の転売禁止特約を導入するよう業界団体へ要請しました。投機的売買が進めば、実需層が住めない街になるとの危機感が背景にあります。
ただし、転売規制は市場の流動性を低下させる側面もあります。価格安定と取引自由のバランスをどこで取るのかは、今後の大きな政策課題です。
投機と実需の分岐点
現在の都心マンション市場は、投資・投機目的と居住目的の境界があいまいになりつつあります。価格上昇局面では両者が同方向に動きますが、成約価格の伸び悩みや在庫増加は、市場が転換点に差しかかっている可能性を示します。
短期転売率自体は全体から見れば高水準とは言い切れません。しかし、局所的な高額取引が価格期待を押し上げ、市場全体の心理を左右する点に注意が必要です。不動産価格は実需だけでなく「期待」によっても動く資産だからです。
結論
都心マンションの短期転売は、数量的には限定的であっても、価格形成への影響という点で無視できません。売り出し価格と成約価格の乖離拡大、在庫増加、値下げ物件の増加といった動きは、市場の過熱にひずみが生じ始めている兆候とも考えられます。
今後は、投機的需要の動向、金利環境、規制のあり方など複数の要素が市場の方向性を左右します。実需層が持続的に参入できる価格水準を維持できるかどうかが、都心不動産市場の健全性を測る重要な指標になるでしょう。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年2月25日
「マンション短期転売、都心に集中」 会員限定記事
