インターネット銀行の普及で、預貯金の利子にかかる住民税が東京都に偏る現象が続いています。国と自治体がめざす「住所地課税」へ移行するには、預金者の居住地を正確に把握する仕組みが必要です。そのカギを握るのがマイナンバー制度と金融デジタルトランスフォーメーション(DX)です。
しかし、制度導入から10年が経過しても、マイナンバーと預貯金口座のひも付けは十分に進んでいません。データ連携の壁と信頼の課題を整理します。
1.マイナンバーと預貯金口座の現状
マイナンバー制度は、社会保障・税・災害対策の三つの分野で個人情報を統合的に管理することを目的に2016年に始まりました。
その後、預貯金口座とのひも付けが任意で始まりましたが、2024年時点での登録率は大手銀行でも低水準にとどまっています。政府は「2026年をめどに義務化を検討」としていますが、銀行・利用者双方に慎重な姿勢が見られます。
背景には、個人情報保護への懸念と、ひも付けによる実質的な利便性が見えにくいという問題があります。税務・社会保障など複数の行政データを横断して活用する体制がまだ整っていないため、利用者にとっての「メリット」が感じにくいのです。
2.制度運用と技術の壁
住所地課税を実現するためには、金融機関が持つ預貯金データを自治体課税に反映できるよう、システム間連携と法的整備が不可欠です。
しかし、現状ではデータ形式や管理システムが銀行ごとに異なり、行政システムと統一的に接続する仕組みが整っていません。
特に課題となるのは、
- 預貯金口座の住所情報が最新でないケースが多いこと
- 銀行によってデータ管理基準(暗号化・保存期間など)が異なること
- マイナンバーの取り扱いに関するガイドラインが厳格で、運用が煩雑になっていること
などです。
こうした制約の下で、国や自治体が個人の利子所得を正確に把握するのは容易ではありません。
3.金融DXがもたらす可能性
他方で、金融DXの進展は、税務・行政データの透明化に大きな可能性をもたらします。
たとえば、マイナンバーと金融口座情報が安全に統合されれば、
- 住所地課税を正確に行うためのデータ基盤が確立できる
- 所得や資産の重複課税・漏れを防げる
- 災害時や給付金支給時の迅速な対応が可能になる
といった利点が生まれます。
ただし、このような統合データ基盤の構築には、「技術より信頼の確立」が欠かせません。個人情報保護への不安を解消し、行政と民間の双方に透明な運用ルールを示すことが前提になります。
4.海外の先行事例に学ぶ
北欧諸国では、税・社会保障・金融情報を統合したデータベースが早くから整備されています。特にフィンランドやスウェーデンでは、個人IDを軸に銀行口座や給与支払情報が自動的に税務当局へ連携される仕組みが確立しており、地方課税の精度も高いとされます。
韓国でも「住民登録番号」と銀行口座が一元化され、国・地方双方での課税・社会保障給付に活用されています。
日本の場合、こうした国々と比べて法制度・行政デジタル基盤の整備が遅れており、自治体間のシステム格差も大きいのが実情です。
結論
住所地課税を実現するには、マイナンバー制度と金融DXを両輪で進めることが不可欠です。
しかし、制度や技術よりも先に求められるのは、国民の信頼を得る運用設計です。
行政・金融機関・国民の三者が「個人データをどう扱うか」という共通認識を持たなければ、どんな制度も形だけに終わります。
デジタル技術の導入は手段であって目的ではありません。目的は、納税の公平と地方自治体の自立を支える「信頼のデジタル税制」を築くことにあります。
出典
・内閣官房「マイナンバー制度の概要」
・金融庁「金融分野におけるデジタル化推進の現状と課題」(2024年)
・総務省「地方税制度調査会 資料」(2025年)
・日本経済新聞「進まぬ金融DXが壁に」(2025年10月31日)ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
