働き方改革が叫ばれて久しくなりました。
テレワークの定着、育児や介護との両立支援、副業解禁の流れなど、制度面では確実に選択肢が増えています。
しかし現場では、「制度はあるが、使いにくい」という声も少なくありません。
その象徴が、フレックスタイム制の普及率の低さです。
本稿では、フレックスタイム制が広がらない理由と、今後の制度設計の方向性について整理します。
フレックスタイム制とは何か
フレックスタイム制は、1988年の労働基準法改正により導入された制度です。
一定の清算期間(例:1か月)において総労働時間を定め、その範囲内で労働者が日々の始業・終業時刻を決めることができます。
本来の趣旨は次のような点にあります。
・育児や介護との両立
・通勤混雑の回避
・自己啓発や学習との両立
・働き手の自律性の尊重
コロナ禍以降は、テレワークとの相性の良さから活用が広がりました。
朝に子どもを送り届けてから勤務を開始する、といった柔軟な働き方も可能になります。
それでも導入企業は8.3%にとどまる理由
厚生労働省調査によれば、2025年時点でフレックスタイム制を採用している企業は8.3%にとどまっています。
この数字は、制度の理念と比べると極めて低い水準といえます。
背景にあるのは、「通常勤務かフレックスか」という二者択一の制度設計です。
現在の仕組みでは、
・フレックス制を導入すれば、労働者が始業・終業時刻を決める
・企業側は原則として通常の始業時刻への出社を強制できない
という構造になります。
たとえば、テレワークが週1日だけの企業でも、フレックス制を採用すると、残り4日の出社日に「9時出社」を求めることが難しくなります。
そのため、
・業務上の統制が難しくなる
・チーム単位での運営が複雑になる
・労務管理コストが増える
といった懸念が生じます。
実際、フレックス制を導入している企業の約5割が「通常勤務との併用制度が必要」と回答しています。
テレワーク拡大が生んだ新たな課題
フレックスタイム制は、テレワークと相性が良い制度です。
しかしテレワークにも副作用があります。
代表的なのが、労働時間の曖昧化です。
・仕事と私生活の境界が不明確になる
・長時間労働が見えにくくなる
・成果主義との結合で過重労働が生じやすい
労働時間の把握が難しくなれば、健康管理リスクも高まります。
柔軟性を高めることと、労働者保護を確保することは、必ずしも同じ方向ではありません。
ここに制度設計の難しさがあります。
なぜ「併用型」が求められるのか
企業側が求めているのは、完全なフレックスか完全な通常勤務か、という極端な選択ではありません。
たとえば、
・週3日は通常勤務
・週2日はフレックス
・コアタイム付きのハイブリッド型
といった、柔軟な組み合わせです。
働き手のニーズは多様化しています。
・育児期
・介護期
・自己研鑽期
・副業期
ライフステージごとに求められる働き方は変わります。
一律の制度ではなく、「選択可能な制度設計」が必要とされているのです。
働き方改革は「時間管理改革」でもある
働き方改革というと、テレワークや副業解禁が注目されがちです。
しかし本質は、時間の使い方の再設計にあります。
企業にとって重要なのは、
・労働時間の適正把握
・長時間労働の防止
・健康管理との両立
個人にとって重要なのは、
・自己決定権の拡大
・生活との調和
・キャリア形成との整合
フレックスタイム制は、この両者のバランスをどう取るかという制度です。
今後の論点
今後の議論では、次の点が焦点になると考えられます。
・通常勤務とフレックスの併用制度の法的整備
・テレワーク時の労働時間把握ルールの高度化
・健康確保措置の強化
・労働時間規制と自律性のバランス
柔軟性を拡大しながら、過重労働を防ぐ。
この両立こそが、働き方改革の第二段階といえるでしょう。
結論
フレックスタイム制が広がらない理由は、制度の理念不足ではありません。
「通常勤務かフレックスか」という硬直的な二択構造にあります。
企業も労働者も求めているのは、白か黒かではなく、その間のグラデーションです。
働き方改革は、単なる制度導入の問題ではありません。
時間と健康、そして生産性のバランスをどう再設計するかという社会全体の課題です。
次の段階では、「選択できる働き方」をどう制度化するかが問われることになります。
参考
・日本経済新聞「働き方改革の現在地(4) 『フレックスか通常か』壁に」2026年2月17日 朝刊
・厚生労働省 労働政策審議会分科会資料(2025年)
