フリーランスのための消費税申告と免税・簡易課税の選択(確定申告・税制改正ナビ 第15回)

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

インボイス制度の導入をきっかけに、フリーランスや個人事業主にとって「消費税」は避けて通れないテーマとなりました。
これまで免税事業者だった人も、取引先の要請や売上拡大によって課税事業者への転換を検討するケースが増えています。
その際に重要になるのが、「免税・課税の選択」と、課税を選んだ場合の「簡易課税制度の利用可否」です。
本稿では、フリーランスの立場から見た消費税申告の基本と、選択判断の実務ポイントを整理します。


消費税の基本構造

消費税は、事業者が取引のたびに預かった消費税(売上税額)から、
仕入れや経費に含まれる消費税(仕入税額)を差し引いた差額を納める仕組みです。

消費税の納付額 = 売上にかかる消費税 - 仕入にかかる消費税

この仕組みを理解すると、課税事業者・免税事業者の違いが明確になります。

区分免税事業者課税事業者
消費税の納付義務なしあり
仕入税額控除不可
請求書の発行インボイス発行不可インボイス発行可
主な対象年間課税売上1,000万円以下年間課税売上1,000万円超

免税事業者の判定

原則として、前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であれば、翌年度は免税事業者となります。
たとえば、2025年の売上が1,000万円を超えた場合、2027年分(令和9年分)から課税事業者となります。
ただし、次のケースでは例外的に課税事業者となることがあります。

  • 新設事業者で特定期間(前年前半)に1,000万円超の売上または給与支払がある場合
  • 自ら課税事業者を選択した場合(インボイス登録など)

インボイス発行を希望する場合は、免税でも自ら「課税事業者選択届出書」を提出しなければなりません。


簡易課税制度の仕組み

課税事業者になった場合、仕入税額控除の計算は煩雑になりがちです。
その負担を軽減するために設けられているのが「簡易課税制度」です。

簡易課税では、実際の仕入れ額ではなく「みなし仕入率」を使って仕入税額を計算します。

事業区分主な業種みなし仕入率
第1種卸売業90%
第2種小売業80%
第3種製造・建設業70%
第4種飲食業・サービス業60%
第5種自由業(士業、講師業など)50%
第6種不動産業40%

たとえば講師業・デザイナー・ライターなどのフリーランスは「第5種(50%)」に該当し、
売上に含まれる消費税の半分を仕入税額として控除できるイメージです。


簡易課税制度を利用するには

簡易課税制度を使うには、事前に「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
届出を提出した課税期間から適用可能で、年間売上が5,000万円以下であることが条件です。

【注意点】

  • 一度選択すると2年間は原則として変更できません。
  • 実際の経費に含まれる消費税の方が多い場合、簡易課税の方が不利になることも。
  • 制度をやめる場合は「簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要。

申告書作成時には、適用届出書の有無を確認し、e-Taxの「課税方式」欄で選択を間違えないようにしましょう。


フリーランスの実務ポイント

① インボイス登録済みの場合

  • 消費税の計算は課税事業者として必須。
  • 売上・経費の区分記帳(税率10%/軽減8%)を正確に。
  • 会計ソフトで「税込経理」または「税抜経理」を統一する。

② 免税事業者のままの場合

  • 消費税の申告・納付は不要。
  • インボイス発行はできないが、経過措置期間中(~2029年9月)は一部控除対象。
  • 取引先との契約更新時に税率・請求方法を再確認。

③ 簡易課税を選択する場合

  • 実際の経費割合がみなし仕入率より低い場合に有利。
  • 反対に経費が多い業種では不利になることも。
  • 青色申告決算書と合わせて、売上区分別に明細を整理しておく。

節税と資金繰りの観点から

課税事業者になると、消費税納付のための資金繰りが重要になります。
納税は「預かり金の返還」と捉え、売上入金のうち10%を別口座に積み立てておくのが基本です。
また、簡易課税を活用することで納税額を予測しやすくなり、経営計画の安定につながります。


結論

インボイス制度の導入で、消費税の申告・納税はフリーランスにも身近な課題になりました。
免税を維持するのか、課税に転換して簡易課税を利用するのか――。
その判断は「取引先の要請」と「事業規模」「経費構造」を総合的に見て行うべきです。
会計ソフトによる自動計算や電子インボイスの導入が進む中で、
消費税対応は“負担”ではなく、経営管理の強化ツールとして捉えることが重要です。


出典
・国税庁「インボイス制度Q&A」
・国税庁「消費税簡易課税制度の概要」
・中小企業庁「個人事業主のためのインボイス対応ガイド」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました