暗号資産市場の中心にあるビットコインが、再び試練の局面を迎えています。価格は最高値から大きく下落し、足元では6万ドル台で推移しています。とりわけ注目すべきは、米国の機関投資家マネーの流出です。
これまでビットコインは「株式や債券とは異なる値動きをする資産」として、ポートフォリオ分散の文脈で語られてきました。しかし直近の動きを見ると、その前提が揺らいでいるようにも見えます。本稿では、今回の下落局面を単なる価格調整としてではなく、「資産としての位置づけの変化」という視点から整理します。
米機関投資家マネーの転換点
今回の下落で特徴的なのは、個人投資家主導ではなく、米国の機関投資家の動向が大きな影響を与えている点です。
ビットコイン現物ETFからの資金流出が続き、米国最大級の交換業者における価格指標も弱含んでいます。いわゆる「コインベース・プレミアム」がマイナス圏に沈む局面が続いていることは、米国勢の買い意欲の低下を示唆しています。
機関投資家が本格参入したのは、ビットコインを分散投資の一環として位置づけたからでした。伝統的資産と異なるリスク特性を持つと評価されたことが背景にあります。しかし現在は、テック株の下落がビットコイン相場に波及するなど、株式市場との連動性が高まっています。
分散効果が十分に機能していないのであれば、資産配分の中での優先順位は下がります。機関投資家にとって、ポートフォリオ理論上の意味が薄れれば、資金を引き揚げる合理性は高まります。
規制不透明感と政策依存構造
もう一つの要因は、規制の行方です。米国で審議されている暗号資産関連法案は、業界全体の制度的枠組みを明確にするものと期待されていますが、審議は停滞しています。
ステーブルコインの利息付与を巡る業界間の対立など、利害調整の難しさが浮き彫りになっています。暗号資産市場は「分散型」を標榜しながらも、実際には政策環境に大きく依存する構造を持っています。
価格の本格反転には政策面での後押しが必要だという見方が強いこと自体が、市場の自律性の弱さを示しています。規制が追い風にも向かい風にもなり得るという意味で、ボラティリティは構造的に高止まりする可能性があります。
22年との違い――流出速度の加速
2022年の市場急落時と比較して、今回の資金流出ペースはより速いと指摘されています。当時は業界内の信用不安が主因でしたが、今回はマクロ環境や金利動向、そして資産配分戦略の見直しという、より広範な要因が絡んでいます。
もしビットコインが株式と高い相関を持つのであれば、金融引き締め局面では同時に売られやすくなります。これは「デジタル・ゴールド」という位置づけとは整合しません。
相場が5万ドル台に下落する可能性も指摘されるなか、重要なのは価格水準そのものよりも、「どの投資家層が市場を支えているのか」という構造分析です。機関投資家主導で上昇した市場は、機関投資家主導で下落するという側面を持ちます。
ビットコインは再び“実験資産”に戻るのか
ビットコインはかつて、実験的な資産として扱われていました。その後、ETF承認などを経て制度圏に取り込まれ、主流資産への道を歩み始めました。
しかし今回の局面は、「制度化されたがゆえに、他資産と同じ論理で評価される」という新たな段階に入ったことを示しているのかもしれません。
分散資産としての独自性を回復できるのか。それともリスク資産の一類型として再定義されるのか。今後の相場動向は、この問いに対する市場の答えを映し出すことになります。
結論
今回の米投資家離れは、単なる価格調整ではなく、ビットコインの「資産としての意味」を問い直す動きと捉えるべきです。
分散効果への期待が揺らぎ、政策依存構造が強調されるなかで、機関投資家は合理的にポジションを見直しています。市場が再び信認を取り戻すためには、規制の明確化だけでなく、他資産との相関構造の変化が必要になるでしょう。
ビットコインは成熟資産へと進化する過程にあるのか、それとも依然として実験段階にあるのか。今回の局面は、その分水嶺に位置しているように見えます。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年2月27日
「ポジション〉米投資家、ビットコイン離れ」

