デジタル遺言書導入へ――相続実務はどう変わるのか

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

遺言書は「争族」を防ぐ最後の意思表示です。しかし、これまでの制度は原則として自筆での作成が求められ、形式不備による無効や紛失リスクも少なくありませんでした。

2026年2月、法制審議会は「デジタル遺言書」の導入に向けた法改正要綱を答申しました。年内にも民法などの関連法改正が目指されています。

相続実務にどのような影響があるのか。制度の概要と実務上の論点を整理します。


現行制度の課題

現在の自筆証書遺言は、原則として全文を自筆し、押印する必要があります。形式が厳格であることは、本人の真意を担保するための仕組みでもありますが、次のような課題が指摘されてきました。

  • 書き直しの負担が大きい
  • 誤字・訂正方法の誤りで無効になるリスク
  • 紛失や改ざんの可能性
  • 保管場所が不明で発見されないケース

2020年からは法務局による自筆証書遺言保管制度が始まりましたが、それでも作成段階は「手書き」が前提でした。


デジタル遺言書の仕組み

今回の改正要綱では、パソコンなどで作成した遺言データを法務局が保管する制度が想定されています。

主なポイントは次の通りです。

  • パソコン等で作成可能
  • 押印不要
  • 法務局が本人確認を実施
  • 保管申請時に全文の口述確認
  • データとして法務局が保管

特に重要なのは、単にデータ提出するだけではなく、申請時に「全文の口述」を求める点です。これは本人の意思確認を厳格に行うための仕組みと考えられます。

形式緩和と意思確認強化を組み合わせた制度設計と言えるでしょう。


利用拡大の可能性

高齢者にとって手書きは負担が大きく、書き直しも心理的ハードルになります。デジタル化により、次の効果が期待されます。

  • 作成の心理的ハードル低下
  • 書き直しの容易化
  • 紛失リスクの軽減
  • 発見可能性の向上

特に都市部や単身高齢者の増加を考えると、遺言の「利用率」そのものが上がる可能性があります。

これは相続紛争の予防という観点からも重要です。


実務上の論点

一方で、実務面ではいくつかの論点も浮かびます。

① デジタル弱者への配慮

パソコン操作が困難な高齢者は依然として多いです。制度ができても、実際に利用できる人が限定されれば、格差が生じる可能性があります。

② 公正証書遺言との使い分け

公正証書遺言は、公証人が関与し、証人も立ち会うため、法的安定性が高い制度です。

デジタル遺言書は利便性が高まる一方、紛争予防機能は公正証書に及ばない可能性があります。

資産規模や家族関係の複雑さに応じた使い分けが重要になるでしょう。

③ 国際相続との関係

海外資産や海外居住者が関係する相続では、準拠法や執行可能性の問題が生じます。

デジタル遺言書が国際的にどのように扱われるのか、今後の整理が必要です。


成年後見制度の見直しも同時に

今回の答申では、成年後見制度の見直しも示されています。

  • 利用途中での終了を可能にする
  • 特定の行為に限定した支援を認める

これまで後見制度は「一度始めるとやめられない」ことが利用をためらう要因でした。柔軟化は利用促進につながる可能性があります。

遺言制度と後見制度の見直しが同時に進むことは、意思決定支援の全体設計を見直す流れといえるでしょう。


今後の実務対応

今後、次の点が重要になります。

  • 自筆・デジタル・公正証書の比較整理
  • 資産規模別の推奨パターンの提示
  • 家族信託との組み合わせ検討
  • 海外資産を含むケースの設計

遺言は単体で完結するものではなく、信託・保険・生前贈与・後見制度と連動して設計する時代に入っています。

デジタル化はその一部にすぎません。


結論

デジタル遺言書の導入は、遺言制度の利用拡大という点で大きな一歩です。しかし、利便性の向上だけで相続紛争がなくなるわけではありません。

重要なのは、
「書けること」ではなく、
「争いにならない設計をすること」です。

制度が変わるときこそ、実務家の役割が問われます。今後の法改正の動向を注視しながら、活用方法を整理していく必要があります。


参考

日本経済新聞「デジタル遺言書導入へ」2026年2月13日朝刊
法制審議会答申資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました