デジタル遺言は、遺言作成の負担を軽減し、相続対策の裾野を広げる制度として期待されています。
しかし、制度が新しくなるほど、「想定外のトラブル」が生じやすいのも事実です。
今回は、デジタル遺言が普及した場合に実務上起こりやすいトラブルを整理し、事前にどこへ注意すべきかを考えます。
トラブル①「形式は有効、内容が危うい」
最も起こりやすいのは、形式的には有効だが、内容が不十分な遺言です。
デジタル遺言は、全文手書きや押印といったハードルが下がる分、「とりあえず書いてみる」人が増えると考えられます。
その結果、以下のようなケースが想定されます。
・財産の記載が曖昧
・相続人の特定が不十分
・負債や付随義務への配慮がない
形式要件を満たしていても、内容に不備があれば、遺言が争いの出発点になる可能性は否定できません。
トラブル②「遺留分を軽視した配分」
デジタル遺言で特に注意が必要なのが、遺留分への配慮不足です。
操作が簡単になると、「自分の財産だから自由に配分してよい」という意識が強まりがちです。
しかし、遺留分制度は遺言の形式に関係なく適用されます。
結果として、
・相続開始後に遺留分侵害額請求が起こる
・家族関係が悪化する
・紛争が長期化する
といった事態を招くリスクがあります。
トラブル③「本人の意思能力を巡る争い」
デジタル遺言では、本人確認や口述による意思確認が制度設計上想定されています。
それでもなお、意思能力を巡る争いが完全になくなるわけではありません。
特に問題となりやすいのは、
・高齢者
・認知症の初期段階
・判断能力にばらつきがある時期
に作成された遺言です。
「デジタルだから安全」という誤解が広がると、かえって争点が複雑化するおそれがあります。
トラブル④「最新の遺言が分からない」
デジタル遺言は書き直しが容易です。
一方で、どれが最終の遺言なのか分かりにくいという新たな問題も生じます。
制度設計上、法務局での管理により一定の整理はされますが、
・家族が生前に内容を把握していない
・想定と異なる内容が突然明らかになる
といったケースでは、心理的な反発や紛争の火種になり得ます。
税務・FP視点での実務的注意点
デジタル遺言があっても、相続税の申告や納税は自動的にスムーズになるわけではありません。
・納税資金の準備
・評価方法の確認
・二次相続まで含めた設計
これらは、遺言の形式とは切り離して検討が必要です。
むしろ、簡便に作成できる分、「税務や将来設計を考えないまま確定させてしまう」リスクが高まります。
結論
デジタル遺言は、相続実務を便利にする制度です。
しかし、その便利さは、内容設計の重要性を下げるものではありません。
形式の負担が軽くなった分、
・何を書いたか
・なぜそう配分したか
・誰にどんな影響が及ぶか
を、これまで以上に意識する必要があります。
次回は、「デジタル遺言・自筆遺言・公正証書遺言の使い分け」をテーマに、
実務目線での選択基準を整理します。
参考
・日本経済新聞「デジタル遺言要綱案、手書き負担減や押印除外」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
