デジタル化が変える相続実務(第2回)――デジタル遺言は誰に向いているのか

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前回は、法制審議会がまとめたデジタル遺言の要綱案をもとに、制度の全体像と方向性を整理しました。
今回は一歩踏み込み、実務の視点から「誰にとってデジタル遺言が向いているのか」を考えます。

遺言制度は、形式が変われば利用者層も変わります。
デジタル遺言の導入は、相続対策の裾野を広げる一方で、向き・不向きをより明確にする改正でもあります。

デジタル遺言が向いている人

まず、デジタル遺言と相性が良いのは、以下のような人です。

一つ目は、遺言内容を定期的に見直したい人です。
相続財産は、預貯金、不動産、金融資産など、時間とともに変化します。
書き直しの負担が軽くなるデジタル遺言は、ライフステージの変化に合わせて柔軟に修正したい人に向いています。

二つ目は、手書きが身体的・心理的に負担になる人です。
高齢や持病などにより、長文の手書きが難しいケースは少なくありません。
入力による作成は、こうしたハードルを下げる効果があります。

三つ目は、遺言書の紛失や管理に不安がある人です。
法務局での保管が前提となるため、保管場所を巡る家族間トラブルを防ぎやすい点は大きなメリットです。

デジタル遺言が向かない可能性のある人

一方で、誰にとっても万能というわけではありません。

まず、デジタル機器の操作に強い抵抗がある人です。
本人確認や口述手続きが用意されるとはいえ、制度全体はデジタル前提で設計されています。
「やり方が分からない」という不安が強い場合、心理的負担はかえって増える可能性があります。

また、複雑な財産構成や高度な相続設計が必要な人も注意が必要です。
事業承継や不動産が多いケースでは、遺言内容そのものが高度になりがちです。
形式が簡単になるほど、内容の設計を誤るリスクが相対的に高まります。

公正証書遺言との関係

デジタル遺言が導入されても、公正証書遺言の価値が下がるわけではありません。
むしろ、役割分担がより明確になると考えられます。

公正証書遺言は、専門家が関与し、公証人が作成する点に最大の強みがあります。
一方、デジタル遺言は、本人主導で作成しやすい反面、設計責任も本人に帰属します。

「簡便さ」を取るか、「確実性」を取るか。
この選択を、本人の状況や家族関係に応じて判断することが、今後の実務ではより重要になります。

税務・FP視点で見落としやすい点

デジタル遺言は形式の負担を減らしますが、相続税や遺留分の問題を自動的に解決するわけではありません

例えば、特定の相続人に財産を集中させた場合、遺留分侵害額請求のリスクは残ります。
また、相続税の申告や納税資金の確保といった実務は、遺言の形式に関係なく発生します。

「簡単に作れる」からこそ、内容のチェックを省略しないという意識が不可欠です。

結論

デジタル遺言は、相続対策の入口を広げる制度です。
一方で、それは「誰でも安心して使える万能ツール」ではありません。

形式が変わる時代だからこそ、
・誰が使うのか
・どこまで自分で設計するのか
・どこから専門家に委ねるのか

この線引きを考えることが、これからの相続実務の核心になります。

次回は、「デジタル遺言で起こりやすいトラブルと注意点」をテーマに、
実際に想定される争点や実務上の落とし穴を整理していきます。

参考

・日本経済新聞「デジタル遺言要綱案、手書き負担減や押印除外」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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