新型コロナウイルスの流行をきっかけに、働き方は大きく変わりました。
通勤を前提とした従来型の働き方から、オンラインを活用したテレワークへと移行した企業も多くあります。
テレワークは、通勤時間の削減や柔軟な働き方の実現など、多くの利点をもたらしました。一方で、近年の研究では、こうした働き方の変化が体力やコミュニケーションのあり方に影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
効率的な働き方として定着しつつあるテレワークですが、その影響をどのように理解すべきなのでしょうか。本稿では、科学研究の知見を手がかりに、テレワーク社会の「副作用」について考えてみます。
テレワークと体力低下の問題
テレワークの普及によってまず指摘されているのが、身体活動の減少です。
明治安田厚生事業団体力医学研究所などの研究では、在宅勤務の頻度と体力の関係が調査されました。平均年齢約40歳の被験者を対象に、椅子から立ち上がる動作を30秒間で何回できるかを測定したところ、通勤して働く人は平均30回であったのに対し、週4日以上テレワークをする人は平均25.7回にとどまりました。
研究者は、この差が「およそ10歳分の体力差」に相当すると指摘しています。
テレワークでは通勤が不要になるため、日常生活の中で自然に発生していた身体活動が減少します。通勤で歩く距離や、オフィス内の移動などがなくなることに加え、自宅では長時間座ったまま仕事を続ける傾向も強くなります。
こうした生活習慣の変化が、体力低下の要因になっていると考えられています。
オンライン議論における「発言の偏り」
テレワークでは、チャットツールやオンライン掲示板などのデジタルコミュニケーションが中心になります。
しかし、こうした環境では議論が一部の参加者に偏る傾向があることも研究で示されています。
ドイツのマックス・プランク研究所などの研究では、オンライン掲示板形式の議論を観察した結果、参加者の多くは投稿回数が少ない一方で、少数の参加者が多数の投稿を行い議論を主導する傾向が確認されました。
実験では520人が参加する議論グループを作り、政治的テーマなどについて4週間議論を行いました。全体の約64%が投稿を行いましたが、その多くは投稿回数が少なく、一部の参加者だけが極めて活発に発言していました。
その結果、議論の中で特定の意見が強く主張され、反対意見が攻撃される場面も観察されました。
このような状況では、多様な意見や視点が十分に反映されない可能性があります。
対面の会議では発言機会を調整することができますが、オンラインのチャット形式ではこうした調整が難しいため、議論の偏りが生じやすいと考えられます。
ビデオ会議の技術的トラブルと評価の歪み
テレワークでは、Zoomなどのビデオ会議システムも日常的に利用されています。
しかし、映像や音声のトラブルが人の評価に影響を与える可能性も指摘されています。
米国コロンビア大学などの研究では、オンライン面接を想定した実験が行われました。
映像がフリーズしたり音声が途切れたりする状況を再現したところ、求職者の評価が最大で1.6点程度低下する結果が確認されました。
この研究が示しているのは、技術的な問題が評価に影響を及ぼす可能性です。
オンライン環境では、通信環境や機器の性能など、本人の能力とは無関係な要因が評価に影響することがあります。これは、対面コミュニケーションではあまり起きなかった問題です。
テレワーク社会への適応
テレワークはすでに多くの企業で定着しており、今後も働き方の重要な選択肢であり続けると考えられます。
そのため重要なのは、テレワークの利点だけでなく、課題も理解したうえで制度や働き方を設計することです。
例えば、体力低下への対応としては、日常的な運動習慣を意識的に取り入れることが考えられます。また、オンライン会議やチャットでは、発言機会を均等にする工夫や、議論の進行を調整する仕組みが必要になるかもしれません。
さらに、オンライン評価の場面では、通信トラブルなどが評価に影響しないような配慮も求められるでしょう。
結論
テレワークは、働き方を大きく変えた革新的な仕組みです。
通勤時間の削減や柔軟な働き方など、社会に多くの利点をもたらしました。
しかし、身体活動の減少やコミュニケーションの偏りなど、新しい課題も浮かび上がっています。
働き方の変化は社会制度や企業文化にも影響を与えます。テレワークの利点を活かしながら、その副作用にも目を向けていくことが、これからの働き方を考えるうえで重要になるでしょう。
参考
日本経済新聞
テレワーク社会の落とし穴 体力下がり、議論が偏る恐れ
2026年3月17日 朝刊
明治安田厚生事業団体力医学研究所
米労働環境医学会誌掲載研究(2025年)
Science Advances
オンライン議論に関する研究(2025年)
Nature
ビデオ会議と評価に関する研究(2025年)

