少子高齢化が進むなか、「育児」と「介護」が同時に発生する家庭は決して珍しい存在ではなくなりました。子どもを育てながら、親の介護も担う状況は「ダブルケア」と呼ばれています。
かつては家族のライフステージが比較的分離していましたが、晩婚化・晩産化の進行により、子育て期と親の要介護期が重なりやすくなっています。これは個人の努力や家族の工夫だけで解決できる問題ではなく、社会構造の変化に起因する課題です。
本稿では、ダブルケアの現状と課題、広がる当事者の支援の輪、そして企業や行政に求められる役割について整理します。
ダブルケアとは何か
ダブルケアとは、育児と介護を同時に担う状態を指します。内閣府の調査などでもその存在は指摘されてきましたが、社会的認知はまだ十分とはいえません。
子どもが幼いほど育児の手はかかります。一方、親が脳血管疾患や認知症などを発症すれば、日常生活の支援が必要になります。夜間対応や通院付き添いなどが重なれば、精神的・身体的負担は急速に増します。
とりわけ深刻なのは、「どこに相談すればよいのか分からない」という問題です。子育ては子育て支援課、介護は高齢福祉課というように、行政窓口が縦割りになっているため、複合的課題への包括的支援が届きにくい状況があります。
当事者がつながる「ダブルケアカフェ」
こうした中、当事者同士が語り合う「ダブルケアカフェ」が各地で広がっています。
横浜市で活動するNPO法人「てとてと陽だまり」は草分け的存在です。月に一度、お茶を飲みながら悩みを共有する場を設けています。日常の葛藤を言葉にし、共感し合うことで、「自分だけではない」と気づく機会になります。
静岡県富士市の「ケアラー応援団たんぽぽ」も同様の活動を展開しています。地域ごとに悩みの内容は異なり、親族関係が密接な地域では介護方針を巡る葛藤、都市部では働き方に関する悩みが多い傾向があるといいます。
東京都杉並区のNPO法人「こだまの集い」では、仕事を辞める前にできる選択肢を伝える支援も行っています。介護にはケアマネジャーという調整役が存在しますが、仕事や育児の領域では「属人化」しやすく、本人が抱え込みやすい構造があります。
ダブルケアカフェは単なる交流の場ではなく、情報共有と心理的支えの機能を担っています。
行政の課題と「重層的支援体制」
国は2021年度から「重層的支援体制整備事業」を市町村に促しています。これは、高齢・障害・子ども・生活困窮など分野を横断して支援する仕組みです。
一部自治体ではダブルケア専用相談窓口も設けられていますが、多くの自治体ではダブルケア自体が明確な支援対象として認識されていないのが現状です。
問題は、当事者自身も「支援の対象になり得る」と気づいていない点にあります。育児も介護も個別には制度が整っているため、「自分の努力不足」と考えてしまい、相談に至らないケースが少なくありません。
「ダブルケア」という言葉が広まること自体が、当事者を孤立から救う契機になります。言語化されることで、検索し、つながり、支援にアクセスできるようになるからです。
企業の役割と働き方の課題
ダブルケアの問題は、職場において「働き方の相談」として表面化することが多いといわれます。
両立支援事業を手掛けるチェンジウェーブグループによれば、仕事と介護の両立相談者のうち3~4割が子育て中であるとのことです。限界に達する前に、制度や選択肢を知ることが重要とされています。
パーソル総合研究所の推計では、ダブルケア就業者は2022年に約15.8万人、2035年には21.2万人に増加すると見込まれています。晩婚・晩産化の進行を踏まえれば、今後さらに増える可能性もあります。
短時間勤務や時間単位の有給休暇制度を整備しても、利用率は必ずしも高くありません。背景には、同僚への遠慮や不公平感があります。制度整備だけでなく、上司による業務調整や職場風土の形成が不可欠です。
ダブルケアとジェンダーの視点
名古屋で活動する一般社団法人「ダブルケアパートナー」では、女性に偏りがちなケア労働という観点から問題提起がなされています。
ダブルケアは単なる家庭内の問題ではなく、性別役割分業意識とも深く関わっています。育児も介護も「女性が担うもの」という前提が残る限り、負担は特定の人に集中しやすくなります。
共生社会を実現するためには、ケアを個人の責任に押し込めない視点が必要です。家庭、地域、企業、行政がそれぞれ役割を担い、支え合う仕組みを構築することが求められます。
結論
ダブルケアは、特別な家庭の問題ではありません。人口構造の変化が生み出した、これからの社会における普遍的課題です。
重要なのは、孤立させないことです。そのためには、
・ダブルケアという概念の周知
・地域での当事者のつながり
・縦割りを超えた行政支援
・企業による両立支援体制の整備
・ジェンダー視点を踏まえた社会意識の変革
が必要です。
育児も介護も、本来は社会全体で支えるべき営みです。ダブルケアを可視化し、支援の網を広げることは、共生社会の成熟度を測る一つの指標といえるでしょう。
参考
日本経済新聞夕刊「〈ライフスタイル 地域〉ダブルケア 当事者の輪」2026年2月24日
日本経済新聞夕刊「企業の相談窓口も救いに」2026年2月24日
パーソル総合研究所「ダブルケア就業者推計」2022年

