シニア世代の住み替えと資金調達の選択肢

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人生100年時代を迎え、シニア世代の住まいに関する相談が増えています。
「子どもが独立し、家が広すぎる」「階段や庭の手入れがつらくなった」「利便性の高い場所へ住み替えたい」。こうした住まいのお悩みは、健康状態の変化や家族構成の変化とともに、誰もが直面し得るテーマです。

住まいは老後の生活の質を大きく左右します。そのため、ライフステージに合わせた住み替えや資金計画を検討することは、安心して暮らし続けるための重要な準備といえます。本稿では、代表的な住み替え手法と資金調達方法、拡大するリバースモーゲージ市場の現状、そして相続トラブルを避けるための家族会議の重要性について解説します。

1 住み替えの選択肢と基本的な資金調達

シニア世代の住み替えの代表的な手段は、大きく次の3つに分けられます。

(1)自宅の売却による「ダウンサイジング」

最もシンプルな方法が自宅の売却です。
広めの戸建てを手放し、コンパクトで生活動線の良い住まいに移ることで、売却益から老後資金を確保できます。
生活利便性の高い地域へ移ることで、医療機関・商業施設へのアクセスが改善し、日常生活の安心感も高まります。

(2)リースバックによる「今の家に住み続ける」選択

「住み慣れた家を離れたくない」という方には、リースバックも有力な選択肢です。
不動産会社などに自宅を売却し、売却先と賃貸契約を結ぶことで、同じ家に住み続けられます。現金を一括で確保できる点はメリットですが、長期間住み続ける場合は注意も必要です。

例:
2,000万円で家を売却し、月20万円の賃料を支払う契約を結んだ場合、単純計算では10年で売却代金を使い切ってしまいます。
生活費・医療費の見通しを含め、長期的な資金計画を前提に検討することが重要です。

(3)リバースモーゲージによる新居購入

新しい住まいを購入したいものの、公的年金だけでは住宅ローンを組みにくいケースがあります。
その際に活用できるのが、自宅を担保に融資を受けるリバースモーゲージです。特徴は次の通りです。

  • 毎月の返済は利息のみ
  • 元金は契約者の死亡時に担保物件の売却で一括返済
  • 住み替え資金・リフォーム資金・借換資金など幅広い用途に対応

住宅金融支援機構と民間金融機関が提供する【リ・バース60】は、住み替えやリフォームのほか、サービス付き高齢者住宅の入居一時金など「住まいに関する資金」に広く使えます。
民間金融機関の商品では、生活資金に利用できる場合もあり、選択肢の幅が広がっています。


2 拡大するリバースモーゲージ市場の現状

日本のリバースモーゲージ市場は、高齢化に伴い利用が拡大しています。

住宅金融支援機構の公表データより(2024年度):

  • 利用申請金額:約1,490億円(前年1,247億円)
  • 利用者の平均年齢:69.5歳
  • 平均融資額:約1,667万円
  • 最も多い資金使途:
     1位 注文住宅(33%)
     2位 戸建てリフォーム(24%)
     3位 借換え(15%)

住まいの維持や改善、新たな住まいへの移行を「住まいに関する資金戦略」として活用する高齢者が増えていることがうかがえます。

3 リバースモーゲージの注意点

メリットの多い制度ですが、リスクも必ず理解しておく必要があります。

(1)金利上昇リスク

リバースモーゲージは変動金利が主流です。
将来の金利上昇によって支払利息が増える可能性があります。

(2)相続人の理解が不可欠

元金は死亡後に清算されるため、担保物件の売却やローン返済は相続人が対応します。
ノンリコース型(売却額が残債を下回っても相続人に返済義務がない)を選ばない場合、相続人に負担が生じる可能性がある点にも注意が必要です。

(3)家族間トラブルのリスク

「家を引き継ぎたい」と考える子どもがいる場合、事前の話し合いがなければ深刻なトラブルの原因になりかねません。
取扱機関が申込時に推定相続人の同意や同席を求めるのはこのためです。


4 相続トラブルを防ぐために必要な「家族会議」

住み替え・リースバック・リバースモーゲージのいずれを選択するにしても、最も重要なのは長期的な資金計画家族の合意形成です。

FPの視点から特に重要と感じるポイントは次の通りです。

(1)100歳までのキャッシュフローシミュレーション

長寿化が進む中、「自分は大丈夫」と思っても、老後資金が枯渇しないか入念に計算する必要があります。
金利上昇時の負担増も加味したシミュレーションが欠かせません。

(2)推定相続人との事前合意

  • 住宅を引き継ぎたいか
  • 売却して返済することを受け入れられるか
  • 手続きを誰が担うか

これらを早めに擦り合わせておくことが重要です。

(3)推定相続人がいない場合の備え

  • 判断能力低下に備えた任意後見契約
  • 死後の事務を託す死後事務委任契約
  • 身元保証会社の活用

住まい・医療・介護・法律の領域をまたいだ複合的なサポートが必要になります。

FPには、金融知識だけではなく、法的・福祉的な支援まで含めた総合的な助言が求められます。

結論

シニア世代の住まいの選択肢は多様化しています。
自宅の売却・ダウンサイジング、リースバック、リバースモーゲージ──。どれもメリットと注意点があり、最適な選択は一人ひとりの資産状況・健康状態・家族関係・価値観によって異なります。

重要なのは、「今の生活の負担を減らし、これからの人生をどう過ごしたいか」という視点から住まいを見つめ直すことです。そして、老後の資金計画と相続の課題を同時に考えながら、ご家族と丁寧に話し合うことが、将来の安心につながります。

FPとしては、住み替えに関わる幅広い制度を正しく理解し、ご本人とご家族の想いに寄り添いながら、最適な選択肢を一緒に考えていくことが求められているといえるでしょう。

出典

・住宅金融支援機構「リ・バース60 利用実績等(2025年1月〜3月および2024年度分)」
・日本FP協会 コラム(専門家コラム)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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