クロスボーダーM&Aや持株会社化が進む中、企業グループの再編は日常的な経営戦略となりました。しかし、国境をまたぐ再編は税務調査の主要な対象領域でもあります。
再編そのものが問題なのではありません。問題になるのは「なぜその再編を行ったのか」「価格や利益配分は合理的か」を説明できるかどうかです。
本稿では、クロスボーダー再編における税務調査対応の実務論点を整理します。
税務調査は「取引」ではなく「ストーリー」を見る
クロスボーダー再編では、株式移転、事業譲渡、吸収合併、会社分割などが組み合わされます。
税務当局は形式的な契約書だけでなく、
1.再編の経済合理性
2.機能・リスク・資産の移転実態
3.再編前後の利益水準
を総合的に見ます。
つまり、調査は取引単位ではなく「グループ全体のストーリー」を検証する作業になります。
主な調査論点
1.適格組織再編の要件充足
日本の組織再編税制では、一定の要件を満たせば課税繰延べが認められます。
しかし、支配関係や事業継続性の要件を満たさない場合、非適格と判断され、含み益課税が発生します。
クロスボーダーでは、外国法人を含む再編が要件解釈を難しくします。
2.移転価格との接続
再編に伴い無形資産や事業機能が移転する場合、その対価の妥当性が問われます。
例えば、日本法人が研究開発機能を海外へ移す場合、将来利益の源泉を移転したと評価される可能性があります。
これは単なる再編ではなく、実質的な利益移転とみなされることがあります。
3.PE(恒久的施設)認定
再編後の意思決定機能や営業活動の実態が変わると、PE認定リスクが生じます。
特に統括会社を海外に設置するケースでは、実質管理地の所在が争点になります。
税務調査で問われる資料
クロスボーダー再編では、次の資料が重視されます。
1.再編目的を記載した取締役会議事録
2.企業価値評価レポート
3.移転価格文書
4.事業計画と収益予測
形式的な書類ではなく、「なぜこの価格なのか」「なぜこの機能配置なのか」を説明できる内容であることが重要です。
事前照会とAPAの活用
不確実性が高い場合、事前照会制度やAPA(事前確認制度)の活用が選択肢になります。
特に移転価格については、事前に税務当局と合意しておくことで、将来の更正リスクを軽減できます。
クロスボーダー案件では、相互協議制度(MAP)も視野に入ります。
再編設計で組み込むべき視点
税務調査対応は「後処理」ではありません。設計段階で次の視点を組み込む必要があります。
1.経済合理性の明文化
2.価格算定根拠の客観化
3.将来収益との整合性確保
4.国別課税影響の試算
再編のスキームが複雑であるほど、説明責任は重くなります。
デジタル企業再編の特殊性
デジタル企業では、無形資産やデータが価値の中心です。
これらをどの法人に帰属させるかは、将来の課税権配分を左右します。
BEPS対応やグローバル最低税率の動向も踏まえ、利益の所在が過度に偏らない設計が求められます。
結論
クロスボーダー再編は、成長戦略であると同時に、税務上の説明責任を伴う行為です。
税務調査は、価格や形式の誤りだけでなく、「経済実態と整合しているか」を問います。
再編を成功させるためには、法務・財務・税務を分離せず、一体で設計する必要があります。
国境を越える再編では、「正しいかどうか」だけでなく、「説明できるかどうか」が最終的な分岐点になります。
参考
日本経済新聞 2026年2月26日朝刊
日本上場に関心示す新興
国税庁
組織再編税制・移転価格税制に関する公表資料
OECD
移転価格ガイドライン・BEPS関連資料
