企業の手元資金が積み上がるなか、株主の視線が一段と厳しくなっています。
とくに現預金比率の高い中小型企業に対し、配当増額や自社株買いを求める株主提案が増加しています。2026年の株主総会シーズンは、「最適な資金水準」と「資本効率の説明責任」がこれまで以上に問われる局面になりそうです。
本稿では、いわゆる「カネ余り中小型株」に焦点を当て、その背景と実務上の論点を整理します。
株主提案が集中する企業の特徴
報道によれば、剰余金関連の株主提案を受けた企業の現預金比率は平均24%と、東証プライム市場平均を大きく上回っています。しかも、その多くが時価総額5000億円以下の中小型株でした。
たとえば、
- ガンホー・オンライン・エンターテイメント
- パソナグループ
- 佐田建設
- しまむら
などが株主から配当政策や剰余金処分について提案を受けています。
共通しているのは、「資本政策の明確な方針が外部から見えにくい」という点です。
現預金を積み上げること自体が問題なのではなく、その水準の妥当性や将来の活用方針が説明されていないことが問題視されています。
なぜ中小型株が狙われるのか
中小型株がターゲットになりやすい理由は、主に三つあります。
① 現預金比率が相対的に高い
総資産に占める現預金の割合が高い企業は、「成長投資も還元も十分に行っていない」とみなされやすい傾向があります。
とくに同比率が50%を超える企業は、資本効率の観点から注目されやすくなります。
② PBR改善余地が大きい
PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る、あるいは1倍近辺で停滞している企業は、株主から資本効率の改善を求められやすくなります。
配当性向やDOE(株主資本配当率)の引き上げ提案が出る背景には、この文脈があります。
③ 規模が小さく影響を与えやすい
時価総額が比較的小さい企業は、アクティビスト投資家が一定割合を取得しやすく、議決権行使への影響も及ぼしやすいと考えられます。
投資家と企業の認識ギャップ
生命保険協会の調査では、手元資金が「余裕のある水準」と認識している企業は3割程度にとどまる一方、投資家側は8割超が余裕があると見ています。
このギャップは何を意味するのでしょうか。
企業側は、
- 将来の景気変動リスク
- M&Aや大型投資への備え
- 不測の資金需要
を理由に、厚めの手元資金を維持したいと考えています。
一方、投資家側は、
- ROEの改善
- 過剰資本の圧縮
- 資本コストを意識した経営
を重視しています。
つまり、「安全性」と「効率性」の優先順位が異なっているのです。
コーポレートガバナンス改革との連動
金融庁が主導する企業統治改革の流れのなかで、コーポレートガバナンス・コードは2026年半ばにも改訂が予定されています。
今回の議論では、「経営資源の最適配分」が重要テーマの一つとされています。
単に配当を増やすかどうかではなく、
- どの程度の現預金を適正水準とするのか
- 成長投資と株主還元のバランスをどう設計するのか
- 人的資本投資をどう位置づけるのか
といった、より構造的な資本政策の説明が求められます。
中小企業経営への示唆
この議論は上場企業だけの問題ではありません。
将来的に上場を目指す企業や、外部株主を迎える企業にとっては、
- 現預金の「目的」と「水準」を言語化できているか
- 中期経営計画と資金計画が整合しているか
- 余剰資金の活用優先順位が明確か
が問われます。
資金をためることは守りの経営として合理的ですが、説明責任を果たせない場合、それは「戦略なき蓄積」とみなされる可能性があります。
結論
日本企業の現預金残高は過去最高水準にあります。
しかし、問われているのは金額そのものではありません。
中長期の企業価値向上に向けて、
- 成長投資
- 株主還元
- 人的資本投資
- 財務の健全性
をどうバランスさせるか。その設計思想と説明力です。
2026年の株主総会シーズンは、「現預金はいくらあるか」ではなく、「なぜその水準なのか」が最大の論点になると考えられます。
資本効率改革は外圧ではなく、経営の質を高める機会と捉えることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年2月20日朝刊
「カネ余り中小型株」に照準
生命保険協会 2024年度調査
金融庁 コーポレートガバナンス・コード改訂議論資料
