インボイス制度と個人事業主の確定申告 ― 消費税対応の実務(確定申告・税制改正ナビ 第14回)

税理士
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2023年10月に導入された「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」は、
個人事業主やフリーランスにとっても大きな転換点となりました。
消費税の課税事業者・免税事業者の区分だけでなく、請求書の形式や帳簿の保存方法が変わり、
確定申告にも直接関係するようになっています。
本稿では、インボイス制度下での確定申告の実務ポイントと、2026年度以降の対応策を整理します。


インボイス制度の基本

インボイス制度とは、売り手が買い手に対して「適格請求書(インボイス)」を発行し、
消費税の仕入税額控除を適正に行うための仕組みです。
制度導入により、消費税の計算と申告の仕組みが次のように変わりました。

区分従来(2023年9月まで)インボイス制度後(2023年10月以降)
請求書任意様式(請求書・領収書など)登録番号・税率区分・消費税額の記載が必須
仕入税額控除請求書保存で可適格請求書の保存が必須
免税事業者の取引控除対象控除対象外(経過措置あり)

適格請求書発行事業者の登録

消費税の課税事業者がインボイスを発行するためには、「適格請求書発行事業者」として税務署に登録が必要です。

【登録の概要】

  • 登録申請書をe-Taxまたは書面で提出
  • 登録番号は「T+13桁の番号」で構成
  • 公開サイト(国税庁インボイス制度公表サイト)で確認可能

免税事業者が登録すると課税事業者となり、売上にかかる消費税の申告・納税義務が発生します。


免税事業者が注意すべきポイント

2023年10月以降、免税事業者と取引する企業・事業者は、
仕入税額控除の対象外となるため、取引条件の見直しや値下げ要請を受けるケースが増えています。

ただし、以下の経過措置(2029年9月まで)により、段階的に控除制限がかかります。

期間控除割合
2023年10月~2026年9月80%控除可
2026年10月~2029年9月50%控除可
2029年10月以降控除不可

免税事業者であり続けるか、課税事業者として登録するかは、
取引先との関係や売上規模を踏まえて慎重に判断する必要があります。


確定申告への影響

インボイス制度の導入により、確定申告書上の消費税の記載方法や帳簿管理も変わりました。

① 消費税申告書の作成

課税事業者は、次のステップで消費税申告を行います。

  1. 売上(課税・非課税)を区分して記帳
  2. 仕入税額控除の対象となるインボイスを確認
  3. 消費税の納付額を算出(預り消費税-控除税額)
  4. e-Taxで申告・納付

クラウド会計ソフトでは、インボイス登録番号の自動管理機能が搭載され、
取引ごとの税区分を自動判定できるようになっています。

② 帳簿・請求書保存

  • インボイス発行側:登録番号・税率・消費税額を明記
  • 受取側:仕入れに関するインボイスを保存(電子帳簿保存法に準拠)
  • 電子取引(PDF・メール請求書)は電子データで保存が義務化

電子帳簿保存法対応ソフトを利用すれば、請求書の自動保存・検索機能により実務が簡素化されます。


実務上の注意点

  • 登録番号の記載漏れがあると、仕入税額控除が認められない
  • 課税・非課税・免税売上の区分を誤ると申告誤りの原因に
  • 電子取引データを印刷して保存するだけでは違法(2024年から完全電子保存義務)
  • 課税期間特例(年1回申告)を利用する場合、期末在庫の消費税処理に注意

インボイス登録後は、帳簿の正確性が税額計算に直結するため、
定期的に仕訳内容と登録番号の整合性を確認することが重要です。


2026年度以降の見直し動向

令和7年度税制改正大綱では、以下の見直しが示されています。

  • 中小事業者向けの記帳・申告簡素化制度の創設
  • 適格請求書発行事業者の登録更新制(仮称)の検討
  • 電子インボイス(Peppol方式)普及支援
  • インボイス番号を活用したAI仕訳連携の本格化

特に電子インボイスは、2026年から国際標準形式「Peppol」での発行・受領が本格化する予定です。
これにより、請求書データがそのまま会計・申告システムに連携され、
手入力を伴わない「完全電子申告」が現実味を帯びてきました。


結論

インボイス制度は、単なる「請求書の書式変更」ではなく、
確定申告・経理・税務のあり方を根本から変える制度改革です。
個人事業主にとっては、

  • 消費税の課税・免税の選択
  • 電子保存対応
  • 会計ソフトの見直し
    が実務上の重要テーマになります。
    制度を正しく理解し、電子化・自動化の流れを早めに取り入れることが、
    今後の事業継続における大きなアドバンテージとなるでしょう。

出典
・国税庁「インボイス制度の概要」
・国税庁「消費税申告書の書き方」
・デジタル庁「電子インボイス推進協議会(Peppol)」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
・中小企業庁「インボイス制度実務対応ガイド」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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