日本の介護現場では人手不足が深刻化しています。高齢化の進展によって介護サービスの需要は増え続けていますが、それを支える人材の確保は年々難しくなっています。
そのなかで近年、急速に存在感を高めているのがインドネシア人材です。とりわけ注目されているのは、大学を卒業した若者が日本の介護分野で働くケースが増えていることです。日本の人手不足とインドネシアの若年雇用問題が重なり、国境を越えた労働移動が新しい形で広がっています。
この記事では、インドネシアの大卒者が日本の介護現場に向かう背景と、その制度的な枠組み、そして今後の課題について整理します。
インドネシアの若年層が直面する就職難
インドネシアは人口約2億8000万人を抱える東南アジア最大の国です。経済成長は続いていますが、若年層の雇用環境は必ずしも十分とはいえません。
毎年およそ180万人の大学卒業者が労働市場に参入しますが、ホワイトカラー職の求人はそれに追いついていません。その結果、大卒者の失業者は100万人を超える規模になっています。
インドネシアでは企業が新卒採用に慎重な傾向もあり、多くの求人で数年以上の職務経験が求められます。大学を卒業したばかりの若者にとって、最初の職を得ること自体が大きなハードルとなっています。
こうした状況のなかで、海外で働くことが現実的な選択肢として広がっています。とくに日本は人気のある就労先の一つとなっています。
日本の介護人材不足と外国人材受け入れ
一方の日本では、急速な高齢化により介護人材の不足が深刻な社会問題となっています。
厚生労働省の推計では、将来の介護需要に対応するためには数十万人規模の追加人材が必要とされています。しかし国内の労働力人口は減少しており、介護職の確保は年々困難になっています。
この問題に対応するため、日本政府は2019年に特定技能制度を創設しました。この制度は人手不足が深刻な産業分野に外国人材を受け入れる仕組みです。
対象分野は介護、宿泊、外食、自動車整備など16分野に広がっています。2025年時点では、特定技能で働く外国人は33万人を超える規模になっています。
そのなかでもインドネシア人材の増加は顕著です。制度開始当初は200人未満でしたが、現在では約7万人に達しています。
介護分野で存在感を高めるインドネシア人材
とくに介護分野ではインドネシア人の存在感が大きくなっています。国籍別でみると、介護分野ではインドネシアが最も多いとされています。
背景には文化的な要素もあります。インドネシアでは家族や高齢者を大切にする文化が強く、介護という仕事への心理的抵抗が比較的少ないといわれています。
また、日本に対する関心の高さも影響しています。アニメやドラマなどを通じて日本文化に親しんできた若者が多く、日本で働くことに魅力を感じる人も少なくありません。
さらに、日本での給与水準はインドネシアに比べて大きく高く、生活費を差し引いても家族への仕送りが可能になるケースが多いとされています。
大卒者が介護職に向かう構造
最近の特徴として、大卒者が介護分野に進むケースが増えている点があります。
インドネシアでは大学進学率が上昇していますが、学歴に見合う雇用機会は十分ではありません。そのため、大学を卒業しても国内で就職できない若者が増えています。
日本語学校や人材紹介機関では、大卒者の割合が年々上昇しています。日本語能力や対人能力を重視する日本企業にとっては、大学教育を受けた人材はむしろ歓迎される存在になっています。
この結果、機械工学や人文科学などを専攻した若者が、日本では介護職として働くという構図が生まれています。
定着のための制度設計が課題
外国人材が日本の介護現場を支える構図は、今後さらに広がる可能性があります。
しかし重要なのは、単に受け入れるだけではなく、長く働き続けてもらうための制度設計です。
日本語教育の支援、キャリアアップの仕組み、資格取得の支援などが整わなければ、外国人材はより条件の良い国へ移動してしまう可能性があります。
介護分野では、技能実習や特定技能から介護福祉士資格を取得し、長期的に働くルートも整備されていますが、制度の運用にはまだ課題も残されています。
日本の高齢化は今後も続くため、外国人材との共存を前提にした労働市場の設計が求められています。
結論
インドネシアの大卒者が日本の介護現場で働く動きは、両国の労働市場の構造が重なって生まれた現象です。
インドネシアでは若年層の雇用機会が不足し、日本では介護人材が不足しています。そのギャップを埋める形で、人材の国際移動が進んでいます。
今後は外国人材を単なる労働力として受け入れるのではなく、日本社会の一員として定着してもらうための制度や環境整備が重要になります。介護人材不足という日本の社会課題は、国際的な人材移動のなかで解決を模索する段階に入っています。
参考
日本経済新聞 2026年3月6日朝刊
出入国在留管理庁 特定技能制度に関する公表資料
インドネシア政府統計局 雇用統計資料

