インドが挑むAI「第三極」構想――グローバルサウス連携は世界秩序を変えるか

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人工知能(AI)をめぐる国際競争は、これまで米国と中国の二極構造で語られてきました。しかし、インドがその構図に風穴を開けようとしています。ニューデリーで開催された「AIインパクトサミット」において、モディ首相は「AIの民主化」を掲げ、グローバルサウスを軸とした新たなAI秩序の構築を訴えました。

インドは2028年までに2000億ドルを投じると表明し、政府・財閥・海外テック企業を巻き込んだ大規模投資を進めています。本稿では、インドのAI戦略の全体像と、その意味を整理します。


米中二極構造への対抗軸

現在のAI開発は、巨大テック企業が主導する米国モデルと、国家主導で統制色の強い中国モデルが先行しています。

米国は民間企業の技術革新力を原動力とし、中国は国家戦略としてAIを推進しています。いずれも巨大な資本と計算資源を背景に覇権を争っています。

これに対し、インドが掲げるのは「第三極」です。その特徴は次の三点にあります。

・AIを公共インフラとして位置づける
・一国の意向に左右されない多国間連携
・多言語・低コスト・包摂性の重視

インドは、AIが先進国の特権になったり、超大国の影響下に限定されたりすることを懸念するグローバルサウス諸国の声を取り込みながら、新たな枠組みを模索しています。


2000億ドル投資と計算基盤の拡張

インド政府は2028年までに2000億ドルをAI分野に投資すると発表しました。既存のGPU約3万8000基の計算能力を拡張し、さらに2万基を追加する方針です。

生成AIの競争力を左右するのは、

  1. AI基盤モデル
  2. GPUなどの計算資源
  3. データセンターと電力

の三要素です。

インドは人的資源では優位に立ちながらも、最先端基盤モデルや安定電力では米中に遅れを取っています。今回の投資は、その弱点補強を目的としたものです。


グローバル企業と財閥の連携

インド戦略を後押ししているのが、海外テック企業と国内財閥の積極投資です。

グーグルは5年間で150億ドルをAIインフラに投じる計画を示しました。大規模データセンターの整備や、米国とインドを結ぶデジタル接続強化を進めます。

OpenAIもインドを重要拠点と位置づけ、インド大手財閥タタ・グループと提携し、大規模AIデータセンターを建設する方針を明らかにしました。

さらに、アダニ・グループやリライアンス・インダストリーズも巨額投資を打ち出しており、AI分野が国家プロジェクト級の位置づけになっていることがわかります。


インドの潜在力

インドの強みは明確です。

・約10億人のネット利用者
・世界データ生成量の約20%
・世界最大級のデジタル人材プール
・2030年までに800万~1000万人のAI人材育成能力

英語運用力とIT産業の蓄積もあり、ソフトウエア分野での国際競争力は高い水準にあります。

一方で、電力供給の不安定さや半導体供給制約といったインフラ面の課題は残ります。AIは24時間365日稼働するため、電力政策は極めて重要です。


AIは地政学そのもの

AI競争は単なる技術開発ではありません。

・データ主権
・クラウド基盤
・海底ケーブル
・半導体政策
・教育制度

といった国家戦略と直結しています。

インドが第三極として定着すれば、AIは米中二極から多極構造へ移行します。それは、通貨体制やエネルギー市場と同様に、国際秩序の再編を意味します。


日本への示唆

日本にとって重要なのは、次の視点です。

第一に、グローバルサウス市場との接続強化です。人口規模と成長余地を考えれば、インドとの協調は無視できません。

第二に、多言語・公共インフラ型AIへの参画です。日本の行政・医療・教育分野との親和性は高い可能性があります。

第三に、電力と半導体の安定供給体制の再設計です。AI時代の産業政策は、エネルギー政策と不可分です。


結論

インドのAI戦略は、単なる投資拡大ではありません。

AIを公共財として再定義し、グローバルサウスの利益を反映した新秩序を構築しようとする試みです。成功すれば、米中二極構造は相対化され、AIの多極化が進む可能性があります。

AIは経済成長の手段であると同時に、価値観と統治モデルの競争の舞台でもあります。

インドの挑戦は、技術覇権の行方だけでなく、世界経済の構造そのものを左右する重要な分岐点に立っているといえます。


参考

日本経済新聞
2026年2月20日朝刊
「インド、AI『第三極』主導 サウスで連携」
「グーグルCEO『インドはAIで格差超える』」
「タタ財閥、印にデータ拠点 オープンAIと」

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