1.「ズレ」が悪いわけではない
「予算を立てたのに、実績が違ってしまった…」
そんな時、つい「予算の立て方が悪かったのでは」と考えてしまいがちです。
でも、予算と実績のズレ(差異)は悪者ではありません。
むしろ、それこそが経営改善のヒントです。
予算どおりに進まないのが現実。
だからこそ、「なぜズレたのか」を分析し、次に生かすことが大切なのです。
2.差異分析(予実分析)の基本
予実管理で行う差異分析は、
「計画」と「結果」を比較し、“ズレの原因”を探ること。
分析の目的は、責任を追及することではなく、行動を改善することです。
まずはシンプルな形で数字を比べてみましょう。
| 項目 | 予算 | 実績 | 差額 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 800,000円 | 792,000円 | ▲8,000円 | ▲1.0% |
| 変動費 | 320,000円 | 334,000円 | ▲14,000円 | ▲4.3% |
| 固定費 | 300,000円 | 290,000円 | +10,000円 | +3.3% |
| 営業利益 | 180,000円 | 168,000円 | ▲12,000円 | ▲6.7% |
ここで大事なのは、「どの要素でズレたのか」を掘り下げることです。
売上が減った理由が、
・販売単価の下落なのか
・販売数量の減少なのか
では、対策がまったく違います。
3.“数字のズレ”をどう読むか?(ケースで理解)
たとえば、あなたの会社でこんなことが起きたとします。
- 販売数量:800個 → 実績880個(10%増)
- 販売単価:1,000円 → 実績900円(10%減)
- 変動費単価:400円 → 実績380円(5%改善)
この結果、売上はわずかに減少しました。
数字を見てわかるのは、
数量は増えたけれど、単価が下がりすぎたということ。
値下げキャンペーンや競合対抗で単価を下げすぎた可能性があります。
こうした「数字の物語」を読み取るのが、予実分析の目的です。
4.定量分析と定性分析をセットで考える
差異分析では、次の2つの視点が欠かせません。
① 定量分析(数字のズレ)
表やグラフで「どれくらい違うか」を確認します。
② 定性分析(理由の深掘り)
現場の声を聞いて「なぜそうなったか」を考えます。
たとえば、売上減少の理由を掘り下げると――
- 値引きキャンペーンを実施した
- 新商品投入が遅れた
- 競合他社が低価格戦略を打ってきた
こうした“現場要因”を見逃すと、次に同じことを繰り返します。
数字と現場の両方を見ることで、改善の方向性が明確になります。
5.差異分析の進め方:5ステップ
実際に予実分析を進める際は、次のステップを意識しましょう。
ステップ① データを整理する
売上・経費・原価など、月次データを表形式でまとめる。
ステップ② 予算と実績を比較する
項目ごとに差額と増減率を計算。Excelの「差分」関数などで自動化も可能。
ステップ③ 差異の大きい項目をピックアップ
すべてを見るのではなく、「動いた数字」に注目。
ステップ④ 原因を分析(定性面)
営業・製造・経理など、関係部署にヒアリング。
ステップ⑤ 改善アクションを立てる
具体的に「誰が」「いつまでに」「何をするか」を決める。
分析だけで終わらせず、次の行動につなげることが肝心です。
6.分析を“チーム戦”にする
数字のズレは、経理部だけでなく、全社の課題です。
営業・製造・人事・経営企画など、部署を超えて共有することで、
初めて“実効性のある改善”が生まれます。
おすすめは、
- 月次レビュー会議を定例化
- グラフ付きの簡単な報告資料を共有
- 改善アクションを次回会議でフォロー
数字を「報告」ではなく「対話」のきっかけにすることで、
組織全体のPDCAが自然に回り始めます。
7.経営陣への報告は「要因+アクション」で
経営層への報告でありがちな失敗は、「数字だけを並べる」ことです。
報告は次のような構成にしましょう。
1️⃣ 差異の概要(どこがどれだけズレたか)
2️⃣ 要因分析(なぜズレたのか)
3️⃣ 改善アクション(次に何をするか)
報告を“結果”で終わらせず、“行動”で締めること。
それが経営判断を支える「良い予実報告」です。
8.まとめ:「ズレの中にチャンスがある」
予実分析は、数字の“間違い探し”ではありません。
むしろ、ズレの中にこそ次のチャンスがあります。
売上が下がったなら、価格戦略を見直すチャンス。
原価が上がったなら、仕入れ先を再評価するチャンス。
人件費が増えたなら、業務効率化を進めるチャンス。
数字のズレを「改善のきっかけ」として受け止めること。
それが、強い経営体質への第一歩です。
⏭️ 次回予告
第5回は――
「AI・クラウドで変わる!現代の予実管理」
生成AIやBIツールを活用した、効率的で“動く”予実管理の新しい形を紹介します。
📘 参考資料
『経営状態を見える化する「予実管理」の手引き』
(企業実務2025年9月号 別冊付録)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
