はじめての予実管理③予算の立て方とKPI設計のコツ――数字を“分解”すると経営が見えてくる

会計
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1.「売上を上げよう」では動かない

経営会議でよく聞く言葉――

「売上をもっと伸ばそう」
「利益を増やそう」

たしかに正論です。
でも、実際には「どうやって?」という部分が抜け落ちていることが多い。

その結果、現場はこうなります。

  • 「営業は頑張ります!」と言うけれど、何を増やせばいいのか不明。
  • 「原価を下げよう」と言うけれど、どのコストを減らすのか曖昧。

この状態で成果が出ないのは当然です。
経営数字を「分解」し、どこを動かせば結果が変わるのかを明確にすること。
それが「予算の立て方」と「KPI設計」の出発点です。


2.ロジックツリーで数字を“見える化”

数字を分解する考え方を、ビジネスの世界ではロジックツリーと呼びます。
たとえば、あなたの会社の売上が1億円だとします。
それを下のように分けて考えてみましょう。

売上高
 └── 販売数量 × 販売単価
    └──(例)A商品とB商品の構成比

これだけでも、
「数量を増やすのか」「単価を上げるのか」
どちらに注力すべきかが見えてきます。

さらに掘り下げると――

販売数量
 └── 商談件数 × 成約率

つまり、営業の努力を「行動」に落とし込めます。
商談件数を増やすのか、成約率を高めるのか。
“どこを改善すべきか”がはっきりするのです。

これこそが、予算を「戦略的」に考えるということです。


3.KPIは“数字の枝葉”を整理する道具

このロジックツリーの中で、会社の成績に影響する重要な枝がKPI(重要業績評価指標)です。
KPIは、いわば経営の温度計
体温が1℃上がれば体調が悪いとわかるように、
KPIの変化で会社の調子をいち早く察知できます。

たとえば――

項目KPIの例担当部署
販売数量商談件数、受注率営業部
販売単価商品別価格、値引率商品企画部
原価材料単価、歩留り率製造部
販管費広告費、外注比率管理部

このように、各部署が動かせる指標を設定することが大切です。
KPIが曖昧だと、責任の所在も曖昧になり、改善が進みません。


4.KPIを設定する4つのステップ

KPIをどう決めればいいのか?
次の4ステップで考えると整理しやすくなります。

ステップ① ゴール(目的)を明確にする

「売上を伸ばす」「コストを下げる」など、最終的な成果を定義します。

ステップ② 数字をロジックツリーで分解する

売上=数量×単価、コスト=単価×数量、といったように、
結果を構成する要素を洗い出します。

ステップ③ “動かせる指標”を選ぶ

現場でコントロールできる要素(例:成約率、仕入単価、稼働率)を選びます。

ステップ④ 数値目標を設定する

「前年より+10%」「コスト率3%改善」など、明確な数値で示します。


5.KPIが多すぎると動けない

KPIをたくさん作りたくなる気持ちはわかります。
しかし、数が多すぎると管理する側も現場も疲れてしまいます。
KPIは「3〜5個/部署」が目安です。

ポイントは、

“本当に変えたい数字”だけに絞ること。

KPIは「何を測るか」よりも、「何を変えるか」が本質です。


6.予算は“現実”と“理想”のバランスで立てる

予算づくりでよくある失敗が、「夢のような数字」を並べることです。
トップの意気込みだけで目標を設定すると、現場がついてこなくなります。

理想を掲げつつも、過去の実績や市場環境をもとに、
「少し背伸びすれば届くライン」を狙うことが重要です。

また、年度計画を1年分まとめて立てるだけでなく、
四半期ごとに見直す“ローリング予算”の考え方もおすすめです。
変化の激しい時代だからこそ、柔軟な計画運用が求められます。


7.人事評価とKPIを連動させると、組織が動く

KPIを設定しても、評価制度と切り離されていては効果が出ません。
「KPIの達成度合いを評価に反映させる」仕組みを作ることで、
社員一人ひとりが数字に責任を持つようになります。

たとえば、営業部は「成約率」、製造部は「歩留り率」など、
自分のKPIがそのまま評価項目になると、数字への意識が自然に高まります。


8.まとめ:「数字を動かす力」を持つ組織へ

予算とKPIを設計する目的は、単に管理表を作ることではありません。

「どの数字を動かせば、会社が良くなるのか」
を明確にし、社員全員が同じ方向を向くための仕組みです。

数字を“分解”して“責任”を割り振る。
この地道なプロセスが、会社を強くしていきます。


⏭️ 次回予告
第4回は――

「予算と実績のズレをどう分析する?」
実際の差異分析の手順と、改善アクションの立て方を解説します。


📘 参考資料
『経営状態を見える化する「予実管理」の手引き』
(企業実務2025年9月号 別冊付録)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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