1.「なんとなく黒字」では、もう通用しない時代へ
「今期は黒字だから大丈夫だろう」
そんな感覚で経営をしている中小企業は、まだ少なくありません。
でも、いざ現場を見てみると――
「想定より売上が低かった」
「仕入れが上がって利益が減っていた」
「どの部門が儲けているのかわからない」
こうした“気づき”が決算後に出てくるケースが多いのです。
つまり、結果を知るのが遅すぎるのです。
いま必要なのは、「後から数字を見る経営」ではなく、
“いま”の状況を見ながら修正していく経営。
その仕組みを支えるのが――
予実管理(よじつかんり)です。
2.「予実管理」ってなに?
予実管理とは、
「予算(予定)と実績を比較し、その差を分析して経営を改善する仕組み」のこと。
たとえば、
- 今月の売上は予算より高い?低い?
- 経費はどの項目が増えている?
- 原価率は計画通り?
- どの要因で利益が減った?
こうした“ズレ”を数字で把握し、次の打ち手を考える――
それが予実管理の基本です。
単なる会計処理ではなく、経営のナビゲーションのような存在。
目的地(目標)に向かう途中で、進路を修正するための道しるべです。
3.VUCAの時代、経営の「羅針盤」が必要
最近よく耳にする言葉に「VUCA(ブーカ)」があります。
これは次の4つの英単語の頭文字です。
- V:Volatility(変動性)
- U:Uncertainty(不確実性)
- C:Complexity(複雑性)
- A:Ambiguity(曖昧性)
円安、原材料高騰、人手不足、AIの急速な普及……。
まさに現代の経営環境は「先が読めない」時代です。
だからこそ、感覚や経験だけではなく、
データに基づいて素早く判断できる経営の“羅針盤”が必要になります。
予実管理はその羅針盤の役割を果たします。
4.予実管理がもたらす4つの効果
予実管理を導入すると、次のような効果が得られます。
① 問題の早期発見
毎月の数字をチェックすることで、赤信号を早めにキャッチできます。
「今月は経費が多いな」「在庫が増えているな」といった違和感をすぐ確認できるのです。
② 客観的な判断ができる
経営判断を“感覚”ではなく“事実”に基づいて行えるようになります。
社員との会話も「感想」ではなく「数字」で話せるようになります。
③ モチベーションの向上
数字で目標が明確になると、社員も「何を目指せばいいのか」がわかります。
「今月は売上○%アップを目指そう!」といった共有が自然に生まれます。
④ 外部への説明がしやすくなる
銀行や投資家、取引先に対しても、数字で説明できる企業は信頼されます。
特に資金調達や融資交渉の場では、予実管理の有無が評価につながることもあります。
5.中小企業でもできる!「AI時代の予実管理」
昔は、予実管理を行うには高価なシステムや専門人材が必要でした。
しかし今では、クラウドツールや生成AIの登場で状況が一変しています。
たとえば、
- ChatGPTなどのAIが数字の差異を自動分析してくれる
- Googleスプレッドシートと連携して売上予測を出せる
- 無料や低価格のSaaS型ツールで、グラフを自動で更新できる
つまり、中小企業でも大企業並みの経営管理ができる時代になったのです。
「うちの規模には難しい」と思っていた企業こそ、
今こそ“手の届くDX(デジタル経営)”のチャンスです。
6.まとめ:「数字で語れる経営」へ
予実管理は、経営の成績表を毎月チェックする仕組みです。
単に利益を出すためではなく、
「どこが良くて、どこを直すべきか」を“見える化”する。
その積み重ねが、強い会社をつくる力になります。
次回は――
「予実管理の仕組みを理解しよう ― PDCAとKPIの関係」
について、もう少し具体的に解説していきます。
📘 参考資料
『経営状態を見える化する「予実管理」の手引き』
(企業実務2025年9月号 別冊付録)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
