日本の空き家問題と対策(第1回)
「気がつけば、実家が空き家になっていた」――そんな声を耳にすることが増えています。
総務省が発表した住宅・土地統計調査によると、2023年時点で全国の空き家は約900万戸。住宅全体の13.8%を占め、過去最高を更新しました。これはおよそ7戸に1戸が空き家という計算です。
なぜこれほどまでに空き家が増えているのでしょうか?そこには人口減少や高齢化だけでなく、税制や住宅市場の構造といった複数の要因が絡み合っています。本記事では、その背景を整理していきます。
1. 人口減少と高齢化のインパクト
まず最も大きな要因は、日本全体の人口減少と高齢化です。
- 地方では若い世代が都市部へ移住し、親世代だけが実家に残る。
- 高齢者が亡くなったり、施設に入居したりすると、残された家は空き家に。
- 子ども世代は都市部で生活基盤を築いているため、戻る見込みがない。
典型的な例は「地方の実家を相続したが、誰も住まずそのまま放置」というケースです。かつては親の家に子がそのまま住むことが自然でしたが、今では生活圏が分かれてしまい、実家を維持するのが難しくなっています。
さらに高齢化が進むと「管理できない家」も増えます。庭の草刈りや屋根の補修などを一人暮らしの高齢者が担うのは負担が大きく、気づけば家は荒れていく。こうして空き家は加速度的に増えていくのです。
2. 相続と税制の仕組みが放置を招く
次に大きいのが「相続」と「税制」の影響です。
相続で家を受け継いでも、すぐに売る・貸すといった判断をする人は少なく、放置されがちです。その背景には税制上の仕組みがあります。
- 固定資産税の優遇
住宅が建っている土地は「住宅用地の特例」により固定資産税が最大6分の1に軽減されます。ところが更地にするとこの優遇がなくなり、税負担が一気に増えるため、「壊すより置いておいた方が安い」と考える人が多いのです。 - 相続人が複数いる場合の難しさ
「誰が住むのか」「売るのか残すのか」で意見が分かれると、結論が出ないまま年月だけが経過します。結果として誰も管理せず空き家になってしまいます。
こうした「税制の歪み」と「家族の合意形成の難しさ」が、空き家放置を助長しているのです。
3. 中古住宅市場の課題
空き家が「売りたくても売れない」原因には、日本の住宅市場の特徴があります。
- 新築志向の強さ
日本では「新築の家」に価値が置かれ、中古住宅の需要は欧米に比べて低いのが現実です。築年数が古い家は、立地が良くても評価が低くなりがちです。 - リフォーム費用のハードル
古い家を売ろうとしても、内装や設備の老朽化でそのままでは住みにくい。買い手がリフォーム費用を見込むと価格はさらに下がり、所有者にとっては「安く手放すくらいなら放置した方がいい」となる場合があります。 - 地域差の大きさ
都市部や人気エリアでは中古住宅が比較的動きますが、地方では需要そのものが少なく、売却が難しいのが実情です。
こうして「市場での出口」が限られていることも、空き家が積み上がる理由の一つです。
4. 実家が空き家になる典型的なパターン
実際によく見られるのは次のような流れです。
- 親が高齢になり施設に入所 → 実家が空き家に。
- 親の死去で相続発生 → 相続人は遠方に住んでおり、管理できない。
- 解体や売却の判断を先送り → そのまま放置。
- 10年、20年と経過し、家は老朽化 → 倒壊リスクや治安・景観の悪化につながる。
こうした「典型パターン」は全国で数多く発生しています。最初は小さな問題でも、放置が長期化することで社会全体の課題になっているのです。
5. 地域社会への影響
空き家は持ち主だけの問題ではありません。地域社会にも大きな影響を与えます。
- 防災上のリスク:老朽化した建物は地震や台風で倒壊する危険がある。
- 防犯・衛生面の不安:不法侵入や火災、害虫の発生源になる可能性。
- 景観の悪化:雑草やごみの放置で周囲の不動産価値も下げかねない。
このように、空き家は「個人の持ち物」ではあるものの、地域全体の暮らしに影響する存在でもあります。だからこそ自治体も対策に乗り出さざるを得ないのです。
6. 空き家を放置しないためにできること
では、私たちはどう備えればいいのでしょうか。現段階でできるのは次のようなことです。
- 家族で話し合う
親が元気なうちに「実家をどうするか」を話し合っておくと、後々の混乱を防げます。 - 早めに選択肢を検討する
売却、賃貸、リフォーム、解体など、選択肢を知っておくことで行動に移しやすくなります。 - 地域の制度を調べる
空き家バンクやリフォーム補助金など、自治体によってさまざまな支援制度があります。
「先送りしないこと」が一番のポイントです。
おわりに
空き家は「気がつけば増えている」という現象ではなく、日本の社会構造そのものから生まれている問題です。人口減少・高齢化・税制・市場の特性が複雑に絡み合い、誰の身近にも起こり得る課題となっています。
放置すれば負担に、工夫すれば資産に。
空き家をどう扱うかは、家族の暮らしや将来設計を左右するテーマです。
次回(第2回)は、国や自治体がどのように対応してきたのか――「空き家対策特別措置法」と最新の法改正のポイントを整理していきます。
📌 参考資料:FPジャーナル 2025年4月号「日本の空き家の現況と対策」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

