所得税の制度を学ぶと、多くの人が疑問に思う点があります。
それは、サラリーマンには基本的に経費が認められないという点です。
自営業者やフリーランスの場合、事業に必要な支出は必要経費として所得から差し引くことができます。
例えば、事務所の家賃、通信費、交通費、設備費などが必要経費になります。
一方、給与所得者の場合は、仕事に関係する支出があっても基本的には経費として認められません。
なぜこのような違いがあるのでしょうか。本稿では、給与所得と事業所得の違いからこの問題を考えてみます。
所得区分の違い
所得税法では、所得をいくつかの種類に分類しています。
代表的なものとして
給与所得
事業所得
不動産所得
雑所得
などがあります。
給与所得は、雇用契約に基づいて受け取る給与や賞与などを対象としています。
一方、事業所得は、事業活動によって得られる所得を対象としています。
この二つの所得区分は、所得の性質が大きく異なります。
事業所得の必要経費
事業所得では、売上から必要経費を差し引いて所得を計算します。
例えば
仕入
設備費
広告費
交通費
通信費
などが必要経費になります。
事業者は自ら事業を運営しているため、収入を得るための支出を自分で負担しています。
そのため、これらの支出を必要経費として認める仕組みになっています。
給与所得の性格
給与所得は、事業所得とは性格が異なります。
給与所得者は企業に雇用されており、仕事に必要な設備や環境は基本的に会社が提供します。
例えば
オフィス
パソコン
業務用設備
などは会社が用意します。
このため、給与所得者が事業者のように多くの経費を負担する構造にはなっていません。
この点が、給与所得と事業所得の大きな違いです。
給与所得控除との関係
給与所得者には、個別の経費計算の代わりに「給与所得控除」が設けられています。
給与所得控除は、給与収入に応じて一定額が控除される制度です。
この控除は、給与所得者の必要経費を概算的に考慮した制度と説明されることがあります。
つまり
事業所得
→ 実際の経費を控除
給与所得
→ 概算控除
という違いがあります。
特定支出控除制度
もっとも、給与所得者にも一定の支出については控除が認められる制度があります。
それが「特定支出控除」です。
この制度では、次のような支出が対象になります。
通勤費
転居費
研修費
資格取得費
単身赴任者の帰宅旅費
などです。
ただし、給与所得控除額を超える部分についてのみ控除が認められるため、実際に適用されるケースは多くありません。
制度の簡便性
給与所得者に個別の経費計算を認めない理由の一つは、制度の簡便性にあります。
日本には数千万人の給与所得者がいます。
もしすべての給与所得者が経費を申告する仕組みであれば、税務行政の事務負担は非常に大きくなります。
給与所得控除という概算制度を設けることで、税務手続が大幅に簡素化されています。
制度をめぐる議論
給与所得と事業所得の違いについては、税制の公平性の観点から議論が行われることがあります。
給与所得者は源泉徴収によって税金が確実に徴収される一方で、経費の自由度は低くなっています。
一方、事業所得者は経費計上の自由度が高い反面、申告や帳簿管理の負担があります。
このように、それぞれの所得区分には異なる制度設計が存在しています。
結論
サラリーマンに経費が認められない理由は、給与所得と事業所得の性格の違いにあります。
事業所得は事業活動によって生じる所得であるため、必要経費を差し引いて所得を計算します。
一方、給与所得は雇用契約に基づく所得であり、個別の経費計算の代わりに給与所得控除という概算制度が採用されています。
この仕組みによって、税務手続の簡素化と税務行政の効率化が図られています。
給与所得課税の制度は、日本の税制の特徴を理解するうえで重要な要素の一つと言えるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年3月2日
永田金司「源泉所得税の不思議 第9回」
国税庁 給与所得および事業所得に関する資料
