おひとり様の介護を誰が担うのか【第4回】――甥・姪が介護を引き受けるときのリスクと「撤退ライン」

FP
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これまでの回では、おひとり様の介護を甥・姪が担う現実、制度の限界、お金の整理、任意後見や遺言といった仕組みについて整理してきました。
ここまで読んで、「制度を整えれば何とかなる」と感じた方もいるかもしれません。

しかし、実務の現場で最も深刻になりやすいのは、介護を引き受ける側の限界です。
甥・姪介護は、法律上の義務ではありません。
それにもかかわらず、「途中でやめられない」「投げ出してはいけない」という心理的圧力の中で、心身や仕事をすり減らしてしまうケースが少なくありません。

今回は、甥・姪が介護を引き受ける際に直面しやすいリスクと、あらかじめ意識しておくべき「撤退ライン」について考えます。


甥・姪介護が長期化しやすい理由

甥・姪介護が特に負担になりやすい理由は、いくつかあります。

第一に、介護期間が長くなりやすい点です。
おじ・おばは年齢が高く、要介護状態に入る時点ですでに90歳前後ということも珍しくありません。
一度介護が始まると、数年単位で関与が続く可能性があります。

第二に、自分の親の介護と重なりやすいことです。
甥・姪世代は50代後半から60代であることが多く、
自分の親の介護がこれから本格化する時期と重なります。

第三に、「代わりがいない」構造です。
子や配偶者がいないおひとり様の場合、「あなたしかいない」という状況に陥りやすく、心理的な逃げ場がなくなります。


仕事への影響は想像以上に大きい

甥・姪介護で最も現実的な問題が、仕事との両立です。

育児・介護休業法の介護休業は、おじ・おばの介護には原則として使えません。
その結果、

  • 有給休暇を使い切る
  • 欠勤や時短を繰り返す
  • 評価や配置に影響が出る

といった事態が起こります。

特に、遠距離介護の場合は、移動時間そのものが大きな負担になります。
「月に1回なら何とかなる」と思っていた通院付き添いが、
週1回、週2回と増えていく中で、仕事との両立が破綻する例もあります。


心身の負担は後から表面化する

介護の負担は、最初から重いわけではありません。
むしろ問題なのは、「まだ大丈夫」「自分が頑張れば何とかなる」という状態が長く続くことです。

  • 睡眠不足
  • 慢性的な疲労
  • 気分の落ち込み
  • 自分の生活が後回しになる感覚

こうした状態は、本人が自覚しにくいまま蓄積します。

甥・姪介護では、「自分は当事者ではない」という意識がある分、
つらさを周囲に相談しづらいという特徴もあります。


家族との関係が悪化するリスク

甥・姪介護は、本人と介護対象者だけの問題ではありません。
介護を担う甥・姪自身の家族にも影響が及びます。

  • 配偶者の理解が得られない
  • 自分の家庭の時間が削られる
  • 経済的負担が家計に影響する

「なぜそこまでやるのか」「そこまで責任はないのではないか」
こうした言葉が家庭内で交わされることもあります。

介護が長期化すればするほど、
自分の家庭を犠牲にしている感覚が強まり、関係悪化の原因になります。


「撤退ライン」を決めておくという発想

甥・姪介護で最も重要なのは、
最初から撤退ラインを決めておくことです。

撤退ラインとは、「ここまでは関わるが、ここから先は引き受けない」という境界線です。

例えば、

  • 身体介護はしない
  • 同居はしない
  • 仕事を辞める選択はしない
  • 一定以上は介護保険サービスに任せる

こうした線引きを、感情が落ち着いているうちに決めておくことが重要です。


撤退は「冷たい判断」ではない

「途中で手を引くのは無責任ではないか」
そう感じる方も多いでしょう。

しかし、甥・姪介護は義務ではありません。
無理を続けて共倒れになることこそ、最も避けるべき事態です。

公的介護保険や施設サービスは、
「家族が限界になったときに使う最後の手段」ではなく、
最初から前提として使う制度です。

撤退とは、介護を放棄することではなく、
役割を制度に引き渡す判断だと捉えるべきです。


制度と役割分担が撤退を可能にする

撤退ラインを実際に機能させるためには、
これまでの回で触れてきた制度が重要になります。

  • 地域包括支援センターとの早期連携
  • ケアマネジャーによるサービス設計
  • 任意後見契約による手続きの整理

これらが整っていれば、
「自分がやらなければ回らない」という状況を避けることができます。


結論:甥・姪介護は「続ける前提」で引き受けない

甥・姪による介護は、善意から始まることがほとんどです。
しかし、善意だけで続けられるほど、介護は軽いものではありません。

だからこそ、

  • 無理を前提にしない
  • 役割の上限を決める
  • いつでも制度にバトンを渡せる状態を作る

この3点が、引き受ける側を守ります。

「できることだけを、できる範囲で」
それが結果として、介護を長く安定して続けるための、最も現実的な姿勢です。


参考

  • 日本経済新聞
     「〈ライフスタイル シニア〉おひとり様 甥・姪が介護 休業制度の対象外、長期化に懸念」
  • 日本経済新聞
     「任意後見契約を結ぶ動きも」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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