前回は、おひとり様の介護を甥・姪が担うケースが増えている現状と、制度の限界について整理しました。
今回は、その中でも特に相談が多いテーマである「お金の問題」に焦点を当てます。
甥・姪介護では、介護そのもの以上に、
- 誰がいくら負担するのか
- 立て替えたお金は戻るのか
- 報酬を受け取っても問題ないのか
といった点が曖昧なまま進みがちです。
善意で始めた支援が、後々トラブルや不信感につながらないよう、現実的な整理が欠かせません。
介護費用は「誰の財布」から出るのか
まず大前提として、介護費用は原則として本人の財産から支払うものです。
具体的には、
- 介護保険サービスの自己負担分
- 施設入居費用
- 医療費・日用品費
- 住居の維持費
これらはすべて、高齢者本人の収入や預貯金、不動産の売却代金などから賄うのが原則です。
しかし実際には、
- 本人が口座管理できない
- 手続きが間に合わない
- 一時的に現金が不足する
といった理由で、甥・姪が立て替える場面が頻発します。
ここで整理を怠ると、「いつの間にか自腹になっていた」という事態が起こります。
立て替えたお金は返してもらえるのか
甥・姪が立て替えた介護費用は、理論上は本人から返してもらうことが可能です。
ただし、条件があります。
- 何の支払いかが明確であること
- 金額が社会通念上、妥当であること
- 領収書や記録が残っていること
これらが揃っていないと、後から説明ができません。
特に注意が必要なのは、
「まとめて払った」「細かいものは記録していない」といったケースです。
善意のつもりでも、相続発生後に他の親族から
「それは贈与ではないか」「勝手に使ったのではないか」
と疑念を持たれることもあります。
立て替え=貸付という意識で、最低限の記録は残すことが重要です。
甥・姪が報酬を受け取ることはできるのか
「時間も労力も使っているのに、無償で続けるのは厳しい」
こうした声は珍しくありません。
結論から言えば、事前に整理していれば報酬を受け取ることは可能です。
ただし、整理の仕方が極めて重要です。
問題になるのは、次のようなケースです。
- 口約束だけで毎月お金を受け取っている
- 金額の根拠がない
- 他の親族に説明していない
この場合、後から「実質的な贈与」とみなされるリスクがあります。
任意後見契約と報酬の関係
任意後見契約を結んでいる場合、
甥・姪が受任者として後見報酬を受け取ることが可能です。
この場合、
- 契約書で報酬額を明確にする
- 家庭裁判所の監督下に置かれる
- 業務内容が明文化される
といった点から、金銭面の透明性が高まります。
「介護をしているのに無償」という状態から、
役割と対価が整理された関係へ移行できる点が大きなメリットです。
財産管理等委任契約を併用する意味
任意後見は、判断能力が低下した後に効力が発生します。
その前段階として使われるのが、財産管理等委任契約です。
これにより、
- 日常の支払い
- 口座管理
- 施設費用の支出
を、判断能力があるうちから正式に任せることができます。
甥・姪が「勝手にお金を動かしている」と見られないためにも、
契約による裏付けは極めて有効です。
遺言とセットで考えるべき理由
甥・姪が介護を担う場合、
「何も残らない」「報われない」という不安が関係悪化の原因になることがあります。
そこで重要になるのが、遺言の存在です。
遺言によって、
- 介護への感謝として財産を残す
- 具体的な分配割合を明示する
といった対応が可能になります。
これは「見返り」のためというより、
介護を巡る疑念や争いを防ぐための整理と考えるべきものです。
税務の視点から見た注意点
甥・姪介護では、税務面の落とし穴もあります。
- 金銭のやり取りが贈与とみなされないか
- 立て替え金が貸付として説明できるか
- 相続時に精算が必要になるか
特に、記録のない金銭移動は、後から修正が困難です。
「身内だから大丈夫」と考えず、
第三者に説明できる形で残すことが、最大の防御策になります。
結論:甥・姪介護は「お金の線引き」が命綱
甥・姪による介護は、感情面のつながりが強い分、
お金の話を後回しにしがちです。
しかし、
- 誰のお金で
- どこまで負担し
- どのように清算するのか
この線引きを曖昧にしたままでは、介護は長続きしません。
任意後見契約や財産管理等委任契約、遺言といった仕組みを使い、
「善意」ではなく「整理された関係」として支えることが、
おひとり様介護の現実的な解となります。
参考
- 日本経済新聞
「〈ライフスタイル シニア〉おひとり様 甥・姪が介護 休業制度の対象外、長期化に懸念」 - 日本経済新聞
「任意後見契約を結ぶ動きも」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
