【補足】デジタル遺言の現実解――公正証書遺言はどう変わり、誰に広がっているのか

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デジタル遺言という言葉から、多くの人は「新しい制度」「将来の話」という印象を受けがちです。
しかし実務の現場では、すでに公正証書遺言のデジタル化が先行して進んでおり、遺言作成の姿は着実に変わり始めています。

特に注目すべきなのは、遺言を作成する人の層が、従来の高齢者中心から、60歳前後の子のいない夫婦やおひとり様へと広がっている点です。
本稿では、公正証書遺言のデジタル化の実態と、利用者層の変化を整理します。

公正証書遺言のデジタル化はすでに始まっている

政府が検討を進めている「デジタル遺言」とは別に、公正証書遺言については、すでにデジタル化が段階的に進んでいます。

従来、公正証書遺言は、公証役場での対面手続きが原則でした。
しかし現在は、
・作成申込みをメールで行う
・本人確認を電子署名等で行う
・ウェブ会議を通じて公証人・証人が参加する

といった形で、対面せずに完結する手続きも可能になっています。

遺言原本も紙ではなくPDFで作成され、日本公証人連合会のクラウドで保管される仕組みです。
体力的な理由や地理的な制約により公証役場へ出向くことが難しかった人にとって、実務上の選択肢が広がっています。

「出張」から「ウェブ会議」へ

これまで、公証人が本人の自宅や病院、施設へ出張して遺言を作成するケースもありました。
ただしこの場合、日当や加算報酬が発生し、費用負担が大きくなる点が課題でした。

ウェブ会議による作成では、これらの出張費用が不要になります。
その結果、身体的負担だけでなく、経済的負担も抑えられる点が、実務上の大きな変化といえます。

もっとも、ウェブ会議の利用は無条件ではありません。
本人の判断能力や、遺言内容の合理性、利害関係者の同席防止などについて、公証人が総合的に判断する必要があります。

遺言作成が「おひとり様」に広がる理由

公正証書遺言の作成件数は増加を続けていますが、背景にあるのは単なる高齢化だけではありません。

特に目立つのが、
・60歳前後で子どもがいない夫婦
・単身のおひとり様

による遺言作成です。

子のいない夫婦の場合、どちらかが亡くなると、配偶者とともに故人の兄弟姉妹などが相続人になります。
遺言がなければ、残された配偶者は親族との遺産分割協議を行う必要が生じます。

また、おひとり様の場合、相続人がいなければ財産は国庫に帰属します。
そのため、福祉団体などへの遺贈を希望する人が増えています。

これらの層は、
・判断能力が比較的明確
・利害関係が単純
という特徴があり、ウェブ会議による公正証書遺言とも相性が良いと考えられます。

デジタル化が意味する本質的な変化

ここで重要なのは、デジタル化が「遺言を簡単にする」だけの話ではない点です。

遺言を作成する年齢が下がり、
・将来を見据えて早めに意思を整理する
・人生の途中で内容を見直す

という行動が、より自然なものになりつつあります。

これは、相続対策が「最終段階の作業」から、「人生設計の一部」へと位置づけを変えていることを意味します。

結論

公正証書遺言のデジタル化は、制度としてはすでに実務に組み込まれています。
そして、その利用は高齢者だけでなく、子のいない夫婦やおひとり様へと確実に広がっています。

遺言のデジタル化が示しているのは、
「いつか必要になったら考えるもの」から
「判断できるうちに整えておくもの」への意識の転換です。

形式が変わっても、遺言の本質は変わりません。
誰に、何を、なぜ残すのか。
デジタル化は、その問いに向き合う機会を、より多くの人に開いているといえるでしょう。

参考

・日本経済新聞「〈マネー相談 黄金堂パーラー〉デジタル遺言(上)公正証書」
・日本経済新聞「遺言作成、おひとり様に拡大」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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