政府・与党が進める「投資用不動産の相続税評価見直し」は、相続税対策の現場に大きな影響を与える可能性があります。
相続直前の高額不動産購入や、不動産小口化商品を利用した評価圧縮といった“節税スキーム”に歯止めをかけ、税制の公平性を高めることが目的です。
本総集編では、シリーズ全6回で解説した内容を横断的にまとめ、制度見直しの背景から具体的な影響、今後の相続対策の方向性までを一気に整理します。
1.見直しの背景
相続税評価では、実際の市場価格ではなく「路線価」や「固定資産税評価額」が基準となり、投資用不動産は実勢価格より低く評価されることが多くあります。
この“評価額の乖離”が、次のような節税スキームにつながっていました。
- 相続直前に数億円規模の賃貸マンションを購入
- 路線価評価では大幅に価値が圧縮される
- 現金で相続するより税負担が大幅に減る
2024年にタワーマンション節税への是正措置が講じられたものの、一般の賃貸マンションや不動産小口化商品が“抜け穴”として残り、さらなる対策が求められていました。
2.新たな評価方法の柱は「購入価格ベース評価」
政府・与党が検討する新評価は、主に次の3つのステップで算出される見通しです。
- 購入価格を基準にする
- 購入から相続までの地価変動を反映する
- そこから約2割程度減額して評価額を決定する
従来よりも実勢価格に近づくため、短期購入による節税はほぼ機能しなくなります。
3.“購入から5年以内”が焦点に
見直しでは、「購入後一定期間内」の不動産を重点的に評価方法変更の対象とする方向で調整が進んでいます。
特に、
- 購入から5年以内に相続が発生した場合
は、購入価格ベース評価を適用する案が有力です。
これは、相続直前の節税目的購入を的確に捉えつつ、長期保有の不動産まで広く巻き込まないための配慮です。
4.不動産小口化商品も実勢価格で評価へ
近年人気の「不動産小口化商品」も評価方法が大きく見直される見通しです。
- 路線価評価ではなく、市場取引価格や基準価額を基に算定
- 購入時期に関係なく、常に実勢価格が反映される方向
- 少額で相続しやすいことを利用した節税スキームは封じられる
結果として、小口化商品での相続税節税はほぼ成立しなくなります。
5.一般の相続には影響が限定的
今回の見直しは、節税目的の短期購入を対象としており、一般家庭の相続に広く影響するものではありません。
影響がほぼないもの
- 自宅(居住用不動産)
- 実家・親族が住む家
- 長期保有の収益物件
- 小規模アパート・戸建賃貸
- 小規模宅地等の特例
- 家族信託・遺言による承継対策
一方で注意が必要なのは、
- 相続直前の不動産購入
- 小口化商品の短期取得
- 高額一棟マンションの短期保有
などのケースです。
6.見直し後の相続・資産承継はどう変わるか
今後の相続対策は、「節税テクニック依存」から次のように変化します。
① 節税ではなく“資産全体の健全な運用”が中心に
短期購入の節税が成立しにくくなり、不動産の本質である
- 収益性
- 長期の安定性
- 承継後の管理しやすさ
などが重視されます。
② 不動産と金融資産のバランスが重要
現金・株式・債券・不動産を家族全体の“ポートフォリオ”として管理する必要があります。
③ 家族単位の資産台帳(バランスシート)作成が有効
- 不動産の購入時期
- 名義
- 評価額
- 収益構造
- 借入状況
を見える化することで、制度変更があっても柔軟に対応できます。
④ 遺言・家族信託・納税資金の確保は引き続き重要
節税手法が使いにくくなっても、
- 遺言書
- 家族信託
- 保険
- 贈与
などの本質的な承継手段はそのまま有効です。
結論
今回の相続税評価見直しは、投資用不動産を巡る行き過ぎた節税スキームを抑え、税負担の公平性を確保するためのものです。
- 相続直前の不動産購入は節税にならない
- 小口化商品は実勢価格で評価される
- 長期保有や自宅には大きな影響はない
- 相続対策は「本質的な資産承継」へシフトする
これからの相続・資産承継は、
家族全体の資産を長期的に守り育てる視点が最も重要になる
と言えるでしょう。
制度の詳細は今後の税制改正大綱で決まりますが、すでに方向性は明確です。
節税テクニックを追う時代は終わり、資産全体を健全に管理する時代に入っています。
出典
・日本経済新聞(投資用不動産の相続税評価見直し報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(財産評価、タワマン評価見直し等)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
