【第5回・総集編】専門家・金融機関とつくる「経営承継計画」

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

全4回にわたり、事業承継の本質は「経営の承継」にあることを解説してきました。
税務対策だけでは事業承継は完結せず、後継者の育成、次世代経営チームの構築、社内制度やガバナンスの整備といった幅広い領域を同時に準備する必要があります。

しかし、これらを1つずつ場当たり的に実行するだけでは十分とはいえません。会社の未来を見据えるなら、これらを体系的に整理し、計画としてまとめ上げる必要があります。それが 「経営承継計画」 です。

最終回となる本稿では、経営承継計画のつくり方と、専門家・金融機関と連携する重要性について整理し、事業承継を成功へと導く総合的な視点をまとめます。

1. 経営承継計画とは何か

経営承継計画とは、将来の社長交代に向けて必要となる準備を一覧化し、時系列で整理した書面のことです。
計画書の目的は次の3点に集約されます。

  • 抜け漏れを防ぐこと
  • 関係者の役割を明確にすること
  • 承継に向けた社内外の理解を得ること

後継者育成、組織体制、社内制度、財務・税務、それぞれの準備には時間がかかり、関係者も多岐にわたります。計画書としてまとめることで、承継の進捗を客観的に把握できるようになります。

典型的な経営承継計画の構成は次のようになります。

  • 後継者の選定・育成計画
  • 経営体制(次世代幹部)の構築計画
  • 組織・社内制度の更新計画
  • 財務内容の分析・改善計画
  • 自社株評価・税務対策の方針
  • 金融機関・取引先への引継ぎスケジュール
  • 社長交代のタイミングと実務手続き

これらを一覧化し、毎年見直しながら進めていくことで、計画的な承継が実現します。

2. 専門家が関与することで承継は大きく前進する

経営承継計画は、会社が自力で作成することも可能ですが、実際には専門家が関与することで完成度が大きく高まります。
事業承継は、税務・法務・労務・財務・経営の総合領域であり、一人の社長だけで完璧に把握することは難しいためです。

主な専門家と担当領域は以下の通りです。

  • 税理士:株価評価、納税資金、財務分析
  • 社会保険労務士:労務管理、就業規則、評価制度
  • 弁護士:法務リスク、株主対応、契約関係
  • 中小企業診断士:経営計画、組織体制分析、事業再構築
  • ファイナンシャルプランナー:個人資産・相続面の整理
  • 金融機関担当者:融資・信用補完、引継ぎ支援

事業承継は複雑ですが、それぞれの専門家を適切に組み合わせることで、企業はより現実的で実行可能な承継計画をつくることができます。

3. 金融機関を巻き込むメリットは大きい

事業承継において金融機関の役割は非常に大きく、次のようなメリットがあります。

(1)後継者の信用を補完してくれる

後継者は経験が浅く、金融機関との関係も不十分なことが多いです。
金融機関担当者が後継者をサポートし、「新体制への理解と信用」を示してくれれば、資金繰りが安定し、会社の外部評価が高まります。

(2)財務面から承継計画をチェックしてくれる

金融機関は財務分析のプロです。

  • 返済能力
  • 設備投資の妥当性
  • 経営改善の必要性

こうした視点は、承継計画を現実的なものにするために欠かせません。

(3)承継のタイミングに合わせた融資・保証が可能

事業承継に伴い、次のような資金需要が発生します。

  • 株式の買い取り資金
  • 納税資金
  • 運転資金
  • 設備更新資金

金融機関はこれらを計画的にサポートできます。

4. 経営承継計画は「社内の安心」を生む

経営承継計画は、単なる書類ではありません。
その存在自体が、社内に大きな安心感をもたらします。

  • 将来が見えることで社員が安心する
  • 幹部が後継者を支えやすくなる
  • 次世代の組織づくりが進む
  • 後継者の成長が可視化される
  • 現社長が安心して権限を委譲できる

特に、事業承継で最も問題になるのは「不透明さ」です。
後継者が決まっていない、方針が見えないという状態は、優秀な社員ほど不安を抱き、離職を検討しやすくなります。

計画書をつくることで、社内の混乱を未然に防ぐことができます。

5. 経営承継計画は「計画」だけでなく「運用」が重要

承継計画は、作って終わりではありません。毎年の決算や会社の状況に合わせて見直し、進捗を確認しながら運用していきます。

具体的な運用ステップは以下の通りです。

  • 毎年、後継者の成長度合いを評価
  • 次世代幹部の役割・配置を見直す
  • 社内制度の改訂状況を確認
  • 財務内容と税務状況をチェック
  • 金融機関・専門家と現状を共有
  • 承継スケジュールを調整

また、承継直前だけでなく、承継「後」の1〜2年も計画に含めておくことが重要です。
後継者が社長として安定するまでを支援する期間として設けることで、経営の揺れを最小限に抑えることができます。

結論

事業承継は、単なる株式や税務の問題ではなく、会社の未来を次世代に引き渡すための大きなプロジェクトです。後継者育成、組織体制づくり、社内制度の整備、財務・税務対応という多岐にわたる課題を総合的に整理し、体系的にまとめたものが経営承継計画です。

専門家・金融機関と連携しながら計画をつくり、社内外に「未来の方向性」を示すことで、事業承継は飛躍的に成功へ近づきます。
計画があることで後継者は成長の道筋が見え、社員は安心し、取引先や金融機関も新体制への信頼を強めます。

事業承継は“早く始めるほど得をする”取り組みです。
会社の未来を守るために、今から少しずつ、確実に進めていくことが大切です。

出典

・日本経済新聞「事業承継の本質は経営承継にあり」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました